※遊郭パロ
(願わくば一抹の幸福を:続編)






「正臣ー、アンタに客だよ」

「誰?」

「さあ。見たことない客」

「…一見さんはお断りのはずなんだけど、」




何十年という長い月日をここで過ごして、太夫とまではいかないが遊郭の中でもそれなりの位についた俺にはすでに何十名と常連客がおり、それなりに遊郭の稼ぎを取っているということもあって、もう一見さんをとらなくていいというお許しが出た矢先のことだった。

見たことない客?


昨日も夜遅くまで客を取っていたこともあって今日は半日休みにしていたのに朝からいきなり客だと起こされ、俺は不機嫌さを隠すことなく顔を顰める。



「断って」

「無理」

「…何で」



即刻切り捨てられる俺の返答。
おいおい、冗談じゃない。


半ばキレそうな俺を見てため息をついた目の前の女は周りを確認した後、俺の耳元でコソコソと囁いた。


「その常連客の連れだとよ、何でも相当な金持ちらしい。さっき店主がお客と話しててね、かなりの額を垂れ込んだらしい。店主も喜んで了承してたよ。」

「…」


そこでようやく俺自体が店の商品だったことを思い出した。
俺に拒否権はない。



「もうすぐ部屋にくる、準備しときな。」

「・・・わかったよ」



もう話が成立しているのならば仕様がない、こんなところで文句を言ったところで状況は変わらないのだ。部屋に引っ込んで着物を着替える。化粧は、まあいいだろ。
常連の客とは言え、一見さんに代わりはない。適当にあしらってしまおう。

憂鬱な思考と不機嫌丸だしの表情も、襖越しに聞こえた声と同時に引っ込めた。



「どうぞ」

やや高めの声で外に声をかければ、スッと襖が開いた。
案内人の後に入ってきた客。

俺はいつものように頭を下げる。


「ようこそおいで下さいました。」



顔を挙げれば目の前には黒の着物をきた、黒髪の男。

正直未だに男の俺を指名する男の気持ちがあまり理解できない。
しかも目の前の男はかなり整った顔立ちをしていた。これなら女が放っておかないだろうに。

案内人が出ていったのを見計らって、自己紹介をする。仕事でしかしない甘い微笑を浮かべて。



「正臣と申します。この度はご指名ありがとうございます、お客様のことは何とお呼びすれば?」



そう訪ねれば、目の前の男はニィッと不気味な笑みを浮かべた。

その目付きはまるで捕食者のそれ。思わず眉間に皺が寄る。



一瞬で理解してしまった、
この男と自分の相性は最悪だと





「折原臨也だよ、よろしくね正臣くん」




出会いは偶然か必然か



これが俺と、折原臨也の出会い。









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