(遊郭パロ風味) ここから逃げようという考えはもう当の昔に捨ててしまった。 あちこちから聞こえる女の高笑いや男の下品な話し声。薄暗い部屋に独り、今日も客を待つ。 ここにきて幾年か。 所謂遊郭というところに連れてこられたのはまだ6歳の頃であった。 ボロボロの母屋に住んで、ボロボロの衣に身を包んで生活していたあの頃をひどく懐かしく思う。 父がいて母がいて。どれだけ貧しくとも俺は幸せだった。 しかし、父が死んでから事態は急変した。表情を無くしてしまった母は俺を連れてここに来た。そして何も知らない俺をここに置き去りにした。 売られた。 実の母に。 その事実を理解するのに何年もかかった。 いつの日か母は向かえに来てくれると、あてがわれた部屋の窓から店の前の道を眺める日々。 そんな行為も日を追う毎に諦めに変わり果てその分俺の胸に黒い靄を残していった。 そして今では、男である自分を抱きたいと言ってくる客も珍しくない程に“女郎”として地位を上げていた。 今日も綺麗な着物に身を包んで客を待つ。 ふいに覗いた窓の下。 そうしてまた、自分自身に嘲笑する。 なんて憐れで滑稽なことだろう。 未だに心の奥底で期待しているのだ。誰かがここから出してくれるのを。 願わくば一抹の幸福を |