夢と違うじゃないか
ここ最近よく変な夢をみる。
夢の内容はこうだ。
その日はバイトの帰りが遅くなってしまい、終電を逃した俺は2駅向こうの自宅まで歩いて帰ることにした。
暗い道を1人帰っていると、ふと後ろに人の気配がして振り返った。するとそこにはフードを深く被った男が立っていて手には鎌を持っている。そして恐怖で動けない俺目掛けてその鎌を降り下ろす。
そこでいつも目が覚めるのだ。
最初の方は、所詮夢だと自分に言い聞かせていたのだが、2週間も同じ夢を見るというのは流石に気持ち悪い。それが自分が殺される夢なら尚更だ。
そんなある日。
その日はたまたまバイトのシフトがラストまでで俺は終電を逃した。
いつもならバイト先の店長が、俺はまだ学生だし終電もあるからといろいろ考慮してくれて早い時間のシフトを組んでくれるのだが、その日はどうしても人が足りなくてラストまでだった。
そこで思い出すのはここ最近毎日見るあの夢。
ここまでの流れは夢と同じだ。
夢ごときにここまで振り回されるのもどうかとは思ったが、やはり気味が悪いので一緒にラストまで入っていた静雄さんに訳を話してみると途中まで送ってもらえることになった。
×
「ほんとすいません、迷惑かけちゃって」
「別にいーって。だいたい急に体調崩して休みやがった臨也の野郎が悪ぃ」
そう言って車を走らせる静雄さんは俺よりも年上で、バイトでもかなり頼れる先輩だ。いろんな話を聞いてくれるし、喧嘩は強いし、俺の憧れだ。
臨也さんというのも、同じバイトの先輩なのだが、彼は静雄さんとはまた違ったタイプのイケメンだ。よく人をからかってくるし正直ムカツクけれど何故か憎めない。そんな彼が風邪を拗らせたせいで今日は俺がラストまで入っていたというわけだ。
他愛ない話をしていると、だんだん家の近所に近づいてきた。
「あ、もうここで大丈夫っすよ」
「ここまで来たんだから家の前まで送ってくって。」
「や、でも悪いです」
「いーから乗っとけ。この辺ほんと物騒だから。」
そう言われてしまっては、降りるに降りれない。まあ今日くらいお言葉に甘えさせてもらおうかな。
そう思ってふと何気なく窓の外を見た瞬間、俺の背筋は凍った。
車は大通りを走っているが、その脇の歩道。きっと徒歩で帰っていたならば歩いていたであろうその歩道に、夢に出てきたフードを被った男とそっくりな人物がこちらを向いて立っていた。
その手には、鎌―
あまりの光景にゾッとして声もでない。
そして男は、車に乗っていても聞こえるくらいの声でこう叫んだ。
「夢と違うじゃないか!」