13
その日も彼は学校の傍までわざわざ車で迎えに来てくれていたようで、校門で出迎えてくれた。相変わらずのイケメンに、何でこんなかっこいい人が俺を好きなんだろうとぼんやり考えた。
「どうしたの?そんなに見つめて。もしかして惚れちゃった?」
「バカじゃないですか。」
冗談めかしたこのやりとりもいつものこと。
すっかり乗り慣れてしまった車の助手席に納まって、外を眺める。
横で、どこに飲みにいこうかなどと話しかける声が聞こえるけれど、俺の頭の中を埋め尽くすのは昼間の友人の言葉。
“紀田に気持ちがないんなら、やめときなそんな関係”
浮んでは消えるその言葉に改めてそうだと思った。
ちゃんと告げなければ。
しかし車内で繰り広げられる冗談混じりなやり取りをしているうちに、少し考えすぎなのではとも思ってしまう。だって会話の内容だってほとんどがふざけたような他愛ないものだ。
たまに好きだと言われるけれど、それ以外はやはり友達に向けるようなものに感じる。
先程まで深刻な状況だと考えていた俺も、その場の雰囲気でだんだんいつもの調子を取り戻して、まあいいかと言うべき言葉を飲み込んでしまった。
×
「ほら正臣くん、立てる?」
「ん〜、むりぃ〜」
足元が覚束無い。
そりゃそうだろう、たいして酒が強いわけではないのに今日はかなり飲んだ。どれくらい飲んだかなんてのは全く記憶に無くて、後から聞いた話では結局この日俺は1人で6本もシャンパンを開けたらしい。
だから正直この時のことはほとんど記憶に無い。
この後とった自分の行動も、相手がとった行動も。
ちゃんと告げるはずだった言葉達すら酒のせいでどこかへいってしまったこの日、初めて俺は“痛い目”を見ることになるのだ。
×
「―ん、」
差し込む日差しで目を覚ます。
寝ぼけ眼で窓の外を見るとよく晴れているのがわかる。
今日もいい天気だなぁ
そんなことをぼんやり考えて、違和感を覚える。
あれー、うちの窓あんなでかかったかな。
ふと天井を見る。
あれ、こんな天井高かったかな。
そして決定的な違和感を見つけてしまった。
「俺のベッド、こんな広くない。」
俺が寝ていたのは黒を基調に作られたデザイン性バツグンのダブルベッド。
そこで初めて自分の体の異変に気付いた。
「何で裸だよ俺。」
辛うじて下着は着ていたものの、身に付けていた他の衣服やらは全部ベットサイドの椅子の上に置かれていた。
昨日はどうしたんだっけ。
二日酔いの頭をフル活動させても全然思い出せない。
そして身体を起こした瞬間に、感じた腰の痛み。
ていうか痛い、めちゃめちゃ痛いぞおい!
何だこれなんだこれ!!?
状況が全く飲み込めない俺は、とりあえず落ち着けと自分に言い聞かす。
暫くベットの上で頭を整理すること数十分。
…とりあえず服を着ようじゃないか、重い体を動かしてベッドの横に足を着く。
昨日着ていたズボンやらをかき集めていざ着替えようとした瞬間、
部屋のドアが開いた。
「あ、起きたんだ?腰、大丈夫?」
そうニッコリ笑う折原臨也の姿に、一瞬で状況を把握した。
腰の痛み、脱ぎ捨てられた服―
ということは何か?
もしかして俺、アイツと、アイツと―
「?どうしたの、って、もしかして腰痛すぎて着替えれない?なんなら手伝ってあげ―ぶふっ!」
「このっ、ド変態野郎っ!!死ねっ!近づくなっ!」
こんな状況でも笑って近づいてくるなんて、頭湧いてんじゃないのかっ。
とりあえず手近にあったふかふかの枕をヤツの顔面目掛けて投げつけた。