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「さ、いくらでも飲んで」

「・・・いや、俺あんまり酒強くないんで」



通された奥の個室。
どんどん運ばれてくる酒に引きつる俺の顔。

いくら昨日のお詫びと称されてもこの量はちょっと多すぎやしないだろうか。しかもどれも高そう。

そして元々を辿っていくと、ここまでされるようなもてなしを、俺は昨日していない。200円のプレミアムプリンなんて何十万するドンペリの前じゃ霞みまくってもう見えない。



だんだん萎縮し始めた俺の気持ちが伝わったのかいないのか、となりに座る彼は笑顔でお酒を注ぎ始めた。



「まあ酒じゃなくても食べ物もあるしさ、遠慮しないでよ。」

「はぁ」


そう言われると同時に料理が運ばれてきた。それを見た途端にお腹が空いてきた俺は何て現金なヤツだろう。しかしそういえばそろそろ晩御飯の時間だ。
相手もこう言ってることだし、お金は払わなくて良さそうだから遠慮がちに料理に手をつける。


「あ、うまい。」

「でしょ?」


ここご飯美味しいんだよー。そんな言葉を聞き流しつつ、箸を進める。最近はバイトの賄いとか脂っこいものばかり食べていたから何かこういうフレンチ?というかお洒落な食事は久しぶりだ。自然と食べるスピードが上がる。



そして、だんだんいい気分になってきたところで思いがけない爆弾が投下された。




「あ、そういえば大丈夫だった?学校。俺見えるか見えないかのギリギリのとこにつけちゃったなーと思ってさ」

「ぶふっ」



しれっと悪びれもなく話し出すコイツに俺はちょっとくらいならいいかと飲んでいた酒を吹き出した。あれ、何かデジャブ。



そして忌々しいこの首についたキスマークのことを思い出した。


「そ、そうだよアンタなに考えてるわけ?!」

「やだな、別に掘ったわけじゃないんだからキスマークくらいで騒がないでよ。」

「キスマークくらいでって何だよ!」



俺がこれをいかに隠して学校に行こうかと朝から試行錯誤したか知らないだろう!
いつもならパーカ一枚で学校に行くのに中にネルシャツを着てしかも首もとまできっちり締めて登校したんだぞ。おかけで周りの友達に『え、なんか今日気合い入ってんな。デート?』とか聞かれて超悲しくなったんだからな畜生!


そんな悶々とした憤りを隠すこともせず、コイツを睨み付るが当の本人は悪びれもなく、本日2発目の爆弾を投下した。



「俺さ、一目惚れしちゃった。正臣くんに」





思いがけない単語が出たことに上半身がぐらついた。
聞いてないよそんなこと。







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