10
朝からどうやってこの忌まわしいキスマークを隠そうか試行錯誤して結局ネルシャツを首元までかっちり止めることで何とか隠すことが出来た。正直内心は何かの拍子に見えてしまわないかひやひやものである。
そして悪いことというのはどうしてこう、立て続けに起こるのだろうか。
「なーに携帯と睨めっこしてるわけ?」
「・・・俺、何でホストクラブになんて行ったんだろう」
「はぁ?」
意味がわからないというような友達の顔を横目に再び携帯と睨めっこ。
そこには登録した覚えの無い人物からのメールが表示されていた。
From :折原臨也
Title:やっほー
――――――――――
昨日はいきなり
押し掛けてごめんね〜
あ、そうそう
今日お店に来るでしょ?
昨日のお詫びに何か
奢るよ♪
じゃ待ってるね〜
―――― END ――――
「だいたい何で来ると思ってんのよ。」
“来て下さい”じゃなくて“来るでしょ?”っておかしくね?
日本語教えてやろうかこの俺が。
眉間に皺寄せていると友達が「そんな怖い顔してると彼女出来ねーぞー」なんて言うから一発殴っといた、腹いせに。
怖い顔してなくても彼女出来ねんだよ!
×
「あ、正臣君こっちこっち!」
「…つかぬ事をお聞きしますが、どちらさまで?」
「やだなぁ、照れてるの?かーわい♪」
うっぜええええ。
どうしてこう日本語が通じないんだろう。もしかして異国の人なのかな?
「はい、じゃあ乗ってー。このまま店まで行くからさぁ」
「ちょっと待とうよ異国のお方。俺いつ行くって言ったよ?ねえ?」
「もー、何が不満なわけ?せっかくお迎えに来てやったのに」
「全部が不満だよ!」
何が、来てやった、だ。どうしてそこ上から目線なんだ。俺が常識教えてやろうか、ええ?
例えようのない悶々とした想いと1人葛藤していると、ふと辺りが騒がしくなってきた。ハッとして顔を上げてみれば何故か俺達の周りには人だかりが出来ており、女子はキャーキャー言いながらこっちを、というよりは目の前のこの常識の無いイケメンホストを見ていた。
そこでようやっと思い出した。
中身は残念でもコイツは超イケメンだった。
「ちょっ、いいから車乗れ!」
「急に強引だね〜、ツンデレ?でもそういうの嫌いじゃないよ」
寧ろ好き〜、とかほざきながらへらっと笑ったその瞬間にまた黄色い声が上がる。どこの有名人だよ!つーか、俺のことはアウトオブ眼中かよひどいみんなひどい。こいつよりは常識あるよ、俺。
「大学っておもしろいとこだね〜、じゃあ行こうか」
出して。
という一言で動き出す車。
え、運転手いたんだ。
そうだよな、ホストって金結構稼いでるんだよな。専属の運転手の1人や2人いますよね…
ダメだ、俺の中でホストというものがだんだん悪の権化のような存在になってきたぞ。