brack corrosion







初めてこの学校に入学して、目に入ったものは舞い散る桜ではなく、黒だった。




「新入生?」

「っは、はい」

「あれ、もしかして怖がらせちゃった?」



そう言って俺を見る彼の目は、捕食者のそれ。
獲物を捕らえようとするかのような、鋭い目。

確実に脳は“アレは危険だ”と、俺に知らせていたのに…
俺はそこから一歩も動けず、ひたすらその人を見上げていた。


動かない俺を見た彼は一瞬口角をあげて、ひらりと桜の木から降りてきた。
気付けばその人の顔がすぐそばにあり、驚いて思考が停止する。そんな俺の心中を知ってか知らずか、その人はさらに顔を近づけて可笑しそうに笑った。



「今度は、俺に見とれちゃった?」

「っは…!?んんっ」



まさか、そんなわけない。
そう言おうと口を開きかけたが、後の言葉は全て目の前にいた彼の口付けによって遮られてしまった。


ねっとりと口内に進入してくる舌、歯列をなぞられて舌を絡ませられると思わず声が上擦る。初対面の彼に、こんなことをされているのに気がつけば何故か拒むこともせず俺は受け入れていて。ようやく開放された時には、俺は腰が砕けており思わず座り込みそうになったところを彼に支えられていた。



「ぁ、ふぁ…」

「ん、―ふふ、ねぇ君ってもしかして淫乱?」

「はっ、はぁ…んなわけないっしょ…」

「なら何で拒否しないわけ?」


そう問われても自分でもわからないのだから答えようがない。
ぐるぐる考え出して、いつまでたっても喋らない俺に興味を失くした様に彼は手を離して背を向ける。

それが何だか無性に切なくて、胸が苦しくなって、

気付けば俺は彼の腕を掴んでいた。



「…何?用ないんだったら、話してほしいんだけど。」

「…っ」


振り向いた彼の目が、ギラリと細められて思わず怯んでしまう。誰も寄せ付けないような、。


何で俺にあんなことしたの、とか。
聞きたいことは山ほどあった
けど、

口を開いて最初に出てきた言葉は自分でもびっくりの発言だった。




「す、き…―」

「―は?」



相手もビックリしたようであんなに細められていた目がまあるく見開く。
しかし、そんな相手の顔を見る余裕なんてなく、ただひたすら好きだと呟いていた。




















「あれって、一目ぼれだったのかな?」

「何の話?」

「あ、ほら。俺達が最初に会ったときのことっすよ」

「ああ、懐かしいね」


爽やかな風が吹き抜ける屋上に座り込んでお弁当を食べる俺の横で、そんなこともあったね何て言いながら寝そべる臨也さん。やはり当時から猫みたいな性格は変わっていないけれど、あの日から俺達の関係は大きく変わった。

しかし、あれが一目ぼれだったのか、一時の気の迷いだったのか未だによくわからない。

そんなことを思い出して悶々としている俺を見て臨也さんは苦笑いして続けた。




「どーでもいいでしょ、そんなこと。今が幸せなんだからさ。」

「それもそーっすね。」




臨也さんにしてはまともな回答に俺は妙に納得しつつ、お弁当の食べ進めることにした。










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