犯罪です



ガタンガタン―


久しぶりに離れた友達の家に遊びに行った帰り。俺は池袋方面に向かう電車に揺られながら、睡魔と戦っていた。ちょうど帰宅ラッシュと被ってしまったのか車内は込み合っており、息苦しい。そんな中で俺はドア付近を陣取り手すりに凭れかかってぼんやり外を眺めていた。


「(なーんか、電車とか久しぶりかも。)」


特に何もすることがなく移り変わる景色をじっと見つめる。外はすっかり日も暮れ、星がちらほらと輝いている。



―次は新宿、新宿―




反対側のドアが開いて人が乗り降りする。どうやら、降りた人よりも乗ってきた人のほうが多かったらしい。ギュウギュウと押されてさっきよりも息苦しさが増した。しかしまああと数十分の我慢だ。この不快感から逃れようと目を閉じた。



違和感を感じたのは電車が動き出してからすぐだった。



「―…?」


お尻のあたりに明らかに人の手があたっている。しかも不自然に揉まれている気がする。


「(…まさか痴漢か?最悪、俺は男だっつーの。)」


満員電車で、すでに不快なのにさらに不快感が募る。しかしまあ、ほっとけば相手も男だということに気づくだろう。

そう軽く思っていた俺が馬鹿だった。










―車内の皆様にお知らせ致します、只今事故の影響により運転を緊急停止致しました。お急ぎの皆様には大変申しわけございませんが…―





そんな放送が流れ出した車内。周りは事態に困惑しているようで携帯で外に連絡をとったりとざわついている。しかし俺はもはやそれどころではなかった。



「…っはぁ」


必死に声を抑える身を捩る。しかしどんなに逃げようともがいてもギュウギュウの車内に逃げ場所などなく、巧みに動くその手にもはやされるがままになっていた。


「ぁっ、んん…っ」

明らかに男目当ての痴漢だ。そんなものがいるなんてこれっぽっちも考えていなかったのでどうしていいのか全くわからない。声をあげれば助かるのかもしれないが、悔しいことに自身はすでに熱を持ち始めている。

こうなってしまってはどうしようもなく、とりあえず電車が動き出すことをひたすら待つしかない。そう思って耐える姿勢に入った俺を見透かしたかのように後ろの男はさらにヒートアップしていく。後ろから抱きしめられる形で上半身を弄られすでに服はぐしゃぐしゃだ。



「―っ!!?」





不意にその手がズボンの中に入ってきた。必死の抵抗も空しく男の手が下部に直接触れる。


「ひっ―…」


思わず悲鳴に似た声が出そうになるも必死に手で押さえる。上下に擦られて不覚にも感じてしまった俺の息子は完璧に立ち上がってしまい、今にもイってしまいそうだった。そんな俺の体をわかりきったかのように、痴漢は俺のソレを手でイケないように握りこんできた。もう頭の中は快感に染まっていて、足もガクガクだ。

“早くイキたい…っ”

頭の中はそれでいっぱいで、痴漢が後ろにまで手を伸ばしてきたことに瞬時に反応できなかった。


「―っ!!!?ぁ、んんぅ!」


グチ、グチュグチャ


「はっ、ぁん、ゃ、指抜いて…―っ」



俺の必死の懇願をも嘲笑うかのように指は動きを早められ、声を我慢するのも限界だった。もはや理性なんてものは残っておらず、俺は無意識のうちに腰を揺らしていた。




「腰、動いてるよ?正臣くん」

「っ!!?い、ざやさっ!?」


ふいに耳元で囁かれた聞き覚えのある声に絶句。慌てて振り返ろうと顔を後ろに向けた瞬間、指で最奥を突かれ俺はあっけなく空イキしてしまった。
快感に震える身体。イったはずなのに、まだ快感がグルグル身体をめぐる。


「ぁ、あ…」

何とか扉に手をついて身体を支える。一向に動き出す様子のない電車、ざわつく車内。そんな中で未だグチャグチャと俺の中を弄っていた臨也さんは相変わらずムカツク高笑いをかましながら、トドメといわんばかりに一言。



「何?もうバテちゃった?まだまだお楽しみはこれからだよ?正臣くん?」





もっと弄って欲しい、イキたい、そんな単語しか浮ばない理性のぶっ飛んでしまった俺の頭の片隅に、“最悪”という文字が瞬時に浮び、そして消えた。









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