平和島静雄2




「・・・・」



目の前には麻酔で眠っている静雄さん。
新羅さんが念のためにと打っておいたらしい。

そんな新羅さんは俺と静雄さんをほったらかして、仕事に出かけてしまった。



「じゃあ僕は仕事に行って来るから静雄君のことよろしくね!」



いや、新羅さん。
よろしくじゃないからね




そんなわけで、ただいまの俺の状況はといえば、静雄さんの寝ているベットの前で何故か正座中。


あ、足痺れた。いたたたた




「しっかし、よく寝てるなぁ…」



特にやることもなく暇なので、ちらりと顔を覗き込んで見る。こうしてみればやはり男前だ。

なんとなく顔にかかる前髪を払おうと手を伸ばしたときだった。



ガシッ―



「え、」






世界が反転。

うん、この表現が正しい。

一瞬真っ白になった頭を再度フル回転させ状況を確認する。

見上げた先には静雄さん。
俺の背後にはベッド。
先ほど伸ばしかけた腕はガッシリ静雄さんに押さえつけられていて、身動きがとれない。


「え、え?静雄さん?」


何故かベットに押し倒されている俺と、覆いかぶさる静雄さん。
その静雄さんを見上げれば、何故か不機嫌そうに俺を見ている。


「臨也、てめぇ…、今何しようとした・・・?」

「い、ざや?」





え、えええええええええ?!

ちょ、ちょちょちょ!
タンマタンマ!!

勘違い!いや、寝ぼけてんの?!俺、臨也さんじゃない!



「し、静雄さ」

「寝込みを、襲うたぁ、いい度胸してんじゃねえか・・・」

「や、俺、紀田正臣!臨也さんじゃないから!」



だ、ダメだっ
静雄さんの目が完璧に据わってる。
必死に逃れようともがくが、もがけばもがくほどギュッと握りしめられる腕。

鈍い痛みに思わず顔を顰める。


「今日こそ…、てめぇの息の根を」

「…っ」


いよいよ笑えない展開になってきた。あんな石頭で頭突きでもされた日には脳内出血どころか、普通に頭割れて死にそうなんだが。


どうしようかと泣きそうになりながらも必死に考え込んでいると、体全体に鈍い衝撃と圧迫感。思わず目を瞑るが、それ以外に衝撃はこない。



「…なん、だったんだ?」


俺の上でスヤスヤと寝息をたて始めた静雄さんをみて、とりあえず生命の危機がさったことに安堵のため息がこぼれる、がしかし―。

いったい何だったんだ、つーか重い、顔が近い!!
疑問ばかりが残るそんな俺が静雄さんの肩越しに見たのは注射器片手に一仕事終えたような顔をした新羅さん。



「いやー、よかった。間に合って。」

「え、なんで、新羅さんが」


仕事に出かけたんじゃなかったのか…
上に静雄さんが乗っかってるから喋りづらい。


「いやー、実はさ、俺麻酔打っていったじゃない?あれしずちゃん用に結構強いの打っていったんだけどさ、副作用あるの忘れてたんだよね。」

「ふく、さよう?」

「そう、副作用。まあ幻覚症状なんだけど」


げんかく!?
つか原因アンタかよっ



「ま、とりあえずは大丈夫だよ。麻酔追加しといたからね」

「え、あの」

「じゃあ、僕はセルティと待ち合わせしてるから!その間静雄くんよろしくね!」



爽やかな笑顔を向けて部屋を出て行ってしまった新羅さん。

麻酔追加って、そんなことしたら次起きた時の静雄さんは一体どうなってんだ・・・




「俺は、これからどうしたらいいんだ…」


考えれば考えるほどに身の危険を感じると同時に、もうどうでもよくなってきた。



「俺も寝ちゃおっかなー…」


穏やかに眠る静雄さんを見ていたら眠くなってきた。
次どうなるかは、起きたら考えよう。うん、そうしよ。
少しでも現実から逃れたくなった俺は、半ば投げやりになりながらも目を閉じた。









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