suggestive love
例えば―
生命に命を注ぐ太陽や雨のように
あなたにとってなくてはならない存在になりたい。
そう、思い始めたのはいつだったか。
「正臣、最近変だよ。大丈夫?」
「おいおい、変って何だよ、ひどいな。」
「変っていうか、何だろう。時々いつもより苛々してたり、不安そうにしてたりするからさ」
「・・・別に大丈夫だって!全然そんなことないし」
「ほんとにほんと?」
「こら、しつこいぞ。」
放課後、心配そうにそして疑うように問い詰めてくる帝人を何とか笑顔でかわす。
昔からこういうとこで変に鋭いこの幼馴染みは、俺の大切な親友であり、俺の大事な居場所でもある。
「んな、心配すんなって。何かあったらお前に相談するし」
「うん、絶対だよ。」
正直なところ、あんまり大丈夫じゃなかったりするんだが、今回はそんな親友にでもなかなか相談出来る内容ではない。
「じゃあまた明日ね」
「おう!気つけて帰れよー」
ごめん、帝人。
嘘をついたことに、心の中でだけ小さく謝る。
でもこれは俺の問題だし、正直なところ自分でもこの気持ちが何なのかわかっていない。
―いや、わかりたくないだけか。
♪チャララ〜
ふいに携帯が鳴り、反射的にディスプレイを見て顔を歪める。俺の今一番の悩みの種から呼び出しのメール。
別に行かなければいいだけの話、なのに足は勝手に進みだす、あの人のもとへ―。
「ああ、来たんだ。いらっしゃい。」
「・・・・」
ヘラっと笑いながら不機嫌丸出しの俺を中に招きいれる。やはり部屋の中は綺麗に掃除が行き届いており、書類も整理されている。
つーか、自分で呼んでおいて“来たんだ”はないだろ。
嗚呼苛々する。
そう帝人にも指摘されてしまった苛々の原因はコイツだ。
「今日は何の用っすか、臨也さん。」
「んー、ああ、別に特に用事はないよ。そうだな、コーヒーでもいれてくれる?」
そう言いながら、書類を読みだした臨也さんに苛々が募る。
やっぱり、臨也さんにとって俺は―
“ただの暇潰しの玩具”
「・・・」
「?どうしたの、そんな泣きそうな顔して。」
「―・・・っ」
この人は、わかってるんだ、全部。俺が今どんな気持ちでいるのかとかも、全部わかって呼び出して面白がって―
「いい加減にしてください。」
「何が?」
「もう、用がないなら呼び出すのとかやめてくれませんか。」
「そんなに嫌なら来なければいいじゃない。」
爽やかに笑いながら平然とそう言い放つ臨也さんにますます顔を歪める俺。
「じゃあ、もう来ません。」
「そうすれば?」
「―・・・っ」
「ま、今日は来ちゃったんだからコーヒーいれてから帰ってよ。俺ちょっと休憩するからさ。」
バタン―
ドアの閉まる音が異様に響く。
馬鹿だ、俺は。
本当は、呼び出される度に苛々しながらも少しだけ、期待していた。自分が臨也さんにとって少しでも必要とされているんだと、錯覚していた。
結局は遊ばれていただけだ、臨也さんにとっての俺はただの暇潰し。
「ほんと馬鹿だよな、俺」
自傷気味に呟いて、笑う。
本当はそれでもよかった。暇潰しでもなんでもあなたに会えるならそれでもよかったんだ。
なのに、もうどうしようもない。
「好き、です」
口から溢れた言葉は、今までずっと否定し続けていた気持ちで。
言葉にしてみればさらに思い知らされる。
「好き、臨也さんが・・・好きなんだよ」
わかってよ。
呟いた声は誰に届くでもなく、部屋の中に溶けた。