平和島静雄
うん、そうだよ。
普通に考えて臨也さんに着いていくより、静雄さんのほうが話し通じるような気がする。
静雄さんああみえて意外と優しいし。
そうと決まれば即行動!
「ちょ、紀田くん?!」
後ろから焦った声が聞こえる。
まあそれもそうだろう、臨也さんを振り切って突然くるりと方向転換、そのまま走りだしたんだから。
「静雄さんっ!!」
「うぉおらああああ!!―って、はっ?!紀田??!」
そして焦っているのは静雄さんも同じだった。
だってまさに今、静雄さんは手に持っているものを投げようとして…
って、あ。なんかデジャブが―…
何で俺って、もうちょっと状況とか考えないんだろうか。
って、今さら反省しても遅い。
来る衝撃に備えて目を瞑る
ガンッ―!!
すごい音が辺りに響き渡る。
しかし、来るはずの衝撃がこない。
「―…あ、れ?」
「っ―、くそっ」
恐る恐る目を開いて目の前の状況に絶句。
投げられようとしていた自販機は見事俺の目の前、コンクリートの地面にめり込んでいた。
呆然とする俺。
ぜえぜえ言ってる静雄さん。
周りにいた通行人も何事かと息をのんでいる。
「くっ、あはははははは!!」
そしてその場にそぐわない高らかな声で笑い出した臨也さん。
ええ、ちょっと!KYにもほどがありますよアンタ。
「あーあ、おかしかった。しずちゃんったら、いつもなら誰であろうと庇ったりしないのに。いつそんなコントロール力身につけたわけ?」
「っ、うるせえっ!」
「おおっと、相変わらず俺には容赦ないんだから。ま、今日のところはコレで勘弁してよ」
「―?!ぐっ…」
「バイバイ、しずちゃん。あと紀田くんも、ね―」
そんな2人のやりとりを呆然と見ているだけだった俺に手をふって、臨也さんは颯爽と路地に消える。
「くそが…、また逃げられたいつか絶対殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺」
残ったのは地面にはえた自販機と、腰の抜けたまぬけな俺と、その俺の横に立って怖いことをぶつぶつ呟く静雄さん。
とりあえず、一難さった。
事の成り行きを見ていた野次馬たちもパラパラと歩き始める。
まあ、情けないことに腰の抜けた俺はその場からまだ動けずにいるんだけど…。
ポタリ―
そんな時だ、突然頬に生暖かい感触。
雨でも降って来たのかと、頬に手を伸ばす。
「って、血?」
手のひらを見れば真っ赤な血。
落ちてきたであろう場所を辿って本日2回目の絶句。
「し、しししし静雄さんっ!さ、刺さってる!!血っ、血!!」
「あぁ?うっせえな、んなことわかってる。」
見上げた先にいた静雄さんの胸には恐らく臨也さんが投げたであろうナイフが、ブスリと刺さっていた。
まさにサスペンスのワンシーンのような状況に思わず声が上ずる。
「いや、刺さってるしまだ!!思いっきり刺さってるって!!」
「おい、静かにしろよ。」
「きゅ、救急車!100番!」
「それ警察だろ、つーかいいからちょっと落ち着けって・・・」
「落ち着けって、無理だよ!何でもいいから、早くっ―」
「だまれって、言ってんだろぉおがっ!!!」
あたりに、静雄さんの怒声が響き渡る。
え、何で怒られてんの俺。
「あはははっ、それは災難だったねー。」
「笑い事じゃないっすよー、新羅さん。」
あの後、抵抗する静雄さんを無理やり闇医者、もとい新羅さんのとこに連れてきた。
途中、何度殺されかかったことか…。
「いや、でもさ。静雄くんがコレくらいで死ぬわけないでしょ」
「いやいやいや、いくらなんでも胸にナイフ刺さってたら死ぬでしょ。」
「それが死なないんだよね、ほんとどんな構造になってんだか…」
「てめえらうるせえぞ」
こんなことになるなら臨也さんについていった方がよかったんじゃないかと、道中何度後悔したことか・・・。
ため息混じりに新羅さんとのやりとりを眺める。
「ま、運のよかったことにどの臓器も傷ついてないし、静雄くんならもう1時間も寝てれば治るよ。」
「1時間も寝てられるかよ」
「ああ、ダメだよ!いくら君でもちょっとは安静にしとかないと。これは医者命令だからね」
「…っち」
悪態つきつつも、大人しくベットに戻る静雄さん。
うーん。何か、新羅さんってすごいかも…。
「ちょ、いたっ!いたたたたたっ、痛いよ静雄くんっ」
「あー、うぜぇ、新羅のくせに生意気なんだよ。」
「何!?そのジャイアニズム振りかざしたセリフ!!ああ折れる!!尺骨がぁっ!」
「・・・・。」
前言撤回。
新羅さんはただの馬鹿だ。
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