計画的犯行




「結局、なーんかいろいろ買っちゃったなぁ。」


右手の紙袋を見つつ軽くため息。

休日、久しぶりに買い物でもしようと池袋に出てきていた俺。
別に何かを買おうという目的はなかったのだが、店を見て回るうちに何だかんだでほしいものが出てきてしまい、いろいろと買ってしまった。


「しかも途中で、臨也さんに会っちゃうし最悪だよ。」


そう、あれはちょうど通りの店でピアスを物色していた時だ。



「(コレとコレ、どっちにしようかな…)」

「あれ?紀田くんじゃん。」

「…げ、臨也さん。」

「げって、聞こえてるからね完全に。」

「聞こえるように言ったんすよ。」

「全く、君も言うようになったねー」

「どうも。」

「いや、別に褒めてないんだけど。」

「で、何で臨也さんが池袋に?」

「あー、ちょっと野暮用でね。そうそう、君にも会えたらいいなと思ってたんだよね。」

「…なんか用すか?」

「うわ、何その疑いの目。ひっどいなー」

「そりゃ疑いたくもなりますよ、臨也さんに関わるとろくな事がないんで。」

「ほんと、言うようになったね。」

「で?何なんですか?」

「いや、目的はもう果たしたからいいや。」

「は?」

「そろそろ行くよ、静ちゃんに見つかる前に。じゃあね。」

「…はぁ。」





強気で対応していたものの、正直また巻き込まれるんじゃないかと内心はヒヤヒヤしていたのだが、案外あっさりと帰っていった臨也さんにほっと胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。



「ま、買い物もたまには悪くないよな〜…って、ん??」


1人、開き直っていると前方に見知った後姿を発見し、思わず頬が緩む。




「みーかど!」

「うわあぁっ!?って、何だ紀田くんか〜」

「おいおい、何だとは何だよ〜。この俺がわざわざ声をかけてやったというのに!!」

「だって、びっくりしたんだもん。カラーギャングとかだったらどうしようかと…」



俺が肩を叩くと慌てたように振り返ったコイツ、竜ヶ峰帝人は俺の親友。見ての通り、気が弱くて臆病者だが友達想いのいい奴だ。



「って、紀田くんはこんなとこで何してたの?」

「何って、買い物だけど。」

「ふーん、めずらしいね。ナンパしてたんじゃなかったんだ。で、もしかして今から帰るとこ?」

「…まあいろいろツッコみたいが、そうだよ今から帰るとこ。って帝人お前こそ何して」

「じゃあ、ちょっとお茶しない!?」

「え、俺の質問はスルーか!?」





というわけで俺たちは近くの喫茶店に入ることに。



「で、紀田くんは何買ったの?」

「んー?みたいのか?帝人は俺の私物チェックしたのかなー?」

「うん」

「(…普通に返された!しかも笑顔で!)」


満面の笑みでオレンジジュースを飲む姿は可愛らしいが、俺には何故かお前の背後に黒い影が見えるよ。何だこの現象。

普通に冗談のつもりだったんだけど、まあ別に見せたって減るもんじゃないし。とりあえず、紙袋を差し出す。それを普通に物色しだす帝人。

…なんか、彼女に浮気チェックされてるみたいな気分。


「パーカーに、ピアス、ジーンズに…メガネ?」

「あ、それ伊達だから。」

「何で黒縁?」

「お前なぁ、黒縁メガネってのは女性みんなの憧れなんだぞ。」

「え、初耳なんだけど。」

「俺みたいなかっこいい奴がたまにメガネなんかをかけちゃったりすると、女性はそのギャップにやられちゃうんだよ〜」

「へぇ〜…、ん?」

「またスルー!?」


ツッコんでくれないと俺ただの寒い奴になっちゃうからね!?帝人君!?
心の中で嘆いていると、紙袋を覗いていた帝人の顔が赤くなっている。

赤く…?何故?


「お前、顔赤く「紀田くんこーゆーの好きなんだ。」は?」


何を言っているのかわからず、思わず首をかしげる。
そして数秒後、紙袋から徐に取り出されたソレを見て今度は俺が顔を赤くする番だった。



「な、な…っ!?」

「まさか紀田くん、こういう趣味があったなんて…。あ、いや、いいと思うよ!趣味なんて人それぞれあるわけだしっ」


おいおい帝人、何だそのフォローは。
第一フォローになってないっ!!



「ちょ、待て待て待て!俺は別に、」

「あ、そうだ!僕これからちょっと用事が。ごめん、じゃあね!!」

「っておい!帝人!!」


自分のドリンク代だけ置いて出て行ってしまった親友を呆然と見つめ、数秒後我に返った俺はもう一度ソレを確認すべく紙袋に手をのばす。

そこにはやはり猫耳カチューシャと首輪が入っており、今度は顔から血の気がなくなるのを感じながら回らない頭で考える。


「(こんなことする奴…、アイツしかいないじゃないか!!)」


意地の悪い笑みを浮かべる黒い悪魔を思い浮かべながら唇を噛む。



“君にも会えたらいいなと思ってたんだよね”
“目的はもう果たしたから”




「あんの野郎…っ!!!」


ぶつけようのない怒りを覚えつつ店を出る。





『今度それ着けて遊ぼうね』

無駄に綺麗な字でそう書かれたメモを見つけたのは、家に着いてからだった。






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