5月にしては暑い今日。
「暑いなー」
「暑いですー」
「うっせぇぞハボ、曹長!」
「お前が一番汗かいてるよ、暑苦しい」
「んだと?」
「止めましょうよー」
こんな日は誰もが気だるそうに各々の仕事に向き合う。外での体力仕事も室内での事務仕事もどっちだって同じだ。
そんな中、完全にだれてしまった3人の横で涼しげな銀髪が風に吹かれて揺れている。表情も変えずインク壺にペンを浸すのはファルマンである。
「暑くねぇのかよ」
「私ですか?」
ブレダとフュリーを代弁してハボックがげんなりした顔でファルマンを見る。ファルマンはいつだって仕事を一番に考えるようなやつだから、どうせ暑いなんて言わないんじゃないか。
「暑い、ですけど…」
「けど?」
ブレダに答えず、執務室を一別して肩をすくめたのはファルマン。意味を察した3人は溜め息をついていそいそとデスクへ戻って行った。
「中尉、話せばわかる」
「何を今更。早く仕事をなさってください。大佐が仕事を止めれば全体が滞ります」
「いやしかしだな。この量を今日でやるには時間が…」
「一から作り直すよりはマシです。今日中に終わらなければ全ての書類に穴を開けます」
「まて!銃はしm」
「承服できません」
おそろしく整った顔の副官相手に冷や汗を流す上官の姿はそれはもう“情けない”の一言につきる。
「…まぁ、こうはなりたくねぇわな」
「ですよね」
暑いなぁ…。吐き出した紫煙だけが平和に窓の外へ逃げていった。
Fin.
***
121『無難に涼しく』
2012.05.24.Thursday.
2012/05/24 22:30