東方司令部の軍人たちがまだ眠い目を擦っている朝。司令部に弟を探す声が響いていた。随分と困り果てた様子で、うるせーぞ大将と叫んだハボックの声も聞こえないようである。
何だ一体。マスタングが迷惑そうに眉をしかめて問う。
答えたのはブレダだ。
「どうせ兄弟喧嘩か何かでしょ。多分猫とか」
「ついに反抗にでたか、アルフォンス・エルリック」
「アルフォンスも好きだよな…猫」
「それは少し違うな、ハボック少尉」
異論を唱えたのはマスタングだった。何でですか、窓の外に視線を投げていた二人がマスタングを見た。黙って書類分けをしていたホークアイとフュリー、コーヒーを淹れているファルマンも顔を上げる。
たった一言で全員の視線を集めたのを知ってか知らずが、マスタングはふっと笑いかぶりをふる。それもいかにも「何故わからんのだ」と言いたげに。
「アルフォンス・エルリックは鋼のに探してほしいから隠れたんだ」
「はぁ?」
思わず失礼な返しをしたハボックの横っ腹にブレダの肘鉄が食い込む。
「そんなんだから少尉は女性にモテんのだ。はっはっは」
「関係ないっスよ!」
「でも大佐」
もうこの人手遅れだ、口を挟む気も起きずに溜め息をついた他4名のなかにも不思議そうに真面目に聞き返す人物がいる。フュリーだ。
「アルフォンス君は女性じゃないですよね?」
「フュリー曹長。見つけてほしいのは何も恋人同士だけではないのだよ」
見たまえ、マスタングが指差した先には「人でなし!」と叫びながら走る弟と「馬鹿!猫可哀想!」と追いかける兄がいた。
「今日も朝から平和っスねぇ」
今度こそ、これに首を横に振るものは誰もいなかった。
Fin.
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119『かくれんぼの理由』
2012.05.01.Tuesday.
2012/05/02 17:35