「きれーだなー、星」
寒空のなか突っ立って空を見上げる菅原は、きれーだなーとは言いながらも、星空など見ていなかった。
空には満点の星。目の前には澤村。月はない。
「なー大地」
「何?」
「冬の星は、寒すぎて凍っちゃうから綺麗なんだよ」
「へー、物知りだなースガは」
手が届かないから、動きを止めてしまうから、永遠だから、だから美しいものが世界にはある。
世界とは見知っているよりもずっと広く恐ろしい。凍った星々が、深い闇夜が二人の姿を映さないほど、空もまた遠く果てない。
明日、明後日、もしくは今。
広すぎる世界はいつ何を奪っていくか、わからない。
「…寒いね、大地」
「あぁ」
時はいくら望んでも止まってはくれない。いずれはこの時間も終わりを告げ、記憶の底に追いやられ、忘れ去られていく。
澤村は自分を、この夜を、この時を覚えていてくれるだろうか。そして対する自分は覚えていられるだろうか。
菅原にとっていっそ世界よりも恐ろしいものがそれだった。
「帰ろうスガ」
「うん」
数歩先で笑う澤村の後ろで菅原はもう一度夜空を見上げた。
吐き出した溜め息さえ凍るのに、足は澤村の元へ走り出したまま、止まらなかった。
Fin.
***
1923年10月21日は、ドイツで、初めて動く夜空が短時間で観察できる投影機(つまりプラネタリウム)が博物館で公開された日だそうです。
プラネタリウム関係ない。
136『こんばんは、永遠』
2012.10.21.Sunday.
2012/10/22 09:40