「あのね、ツッキー」

 まだ明るい学校の帰り道。突然の呼び掛けに山口の二歩先を歩く月島はわざわざ立ち止まってこちらを振り向いた。
 片手にショートケーキの入った袋。今日が誕生日の月島へ山口が贈ったものである。

 「何さ山口」

 彼は随分と上機嫌なようで口元には僅かではあるが微笑みがひとつ。基本的に顔には出さないので月島の感情の変化は山口にしかわからない。それがまた嬉しい。
 ただ単に自分のことのように嬉しい。

 「おめでとう!」

 笑うと月島は困ったような笑いたいような泣きたいような変な顔をする。誕生日のこの日、月島は決まってそうだった。
 この理由を山口は知らない。だが知りたいとも思わない。

 人一倍大人びた顔をして、人一倍臆病な彼が自分から口を開いてくれるまで。

 ひどく長い月日を要する予感はある。
 それでも。

 「生まれてきてくれて、ありがとう!」
 「……………うん」

 今はこれだけで十分だった。


Fin.

***

2012.Tukisima Birthday.
かなり遅いけど

134『だって心を奪われたから』
(title:「休憩」様)

2012.10.15.Monday.

2012/10/15 18:04 






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