あのひとはいつでもやさしかった。
いつもニコニコして、褒めるときはいっぱい褒めてくれた。優しく私の頭を撫でる、あの大きな手が好きだった。
怒ったときはかなりこわいけれど、その後は言いすぎた、ごめんねって、こっちが悪いのに、本当に申し訳なさそうな顔をして謝るのだった。
あのひとがどうしてあんなに優しくしてくれたのかよく分からなかったけど、多分、そういう性分なんだろうとおとなになってから気付いた。

「あーーーー確かにあいつは昔からそういうやつだった」

私の話を聞いた彼が思い出したというように頷いた。先程から適当に相槌を打っていたのでてっきり真面目に聞いていないものと思っていたが、どうやらちゃんと聞いていたらしい。それを思わず口に出すと、彼に頭を小突かれた。

「いたっ」

結構痛かった。もうちょっと加減というものをしてほしい。女の子には優しくしなさいって言われなかったのか。そう思いながら彼をじろりと睨むと、まるで文句でもあるのかと言いたげな顔で私を見ていた。

「……やさしくない」
「優しくされたいならあいつに慰めてもらえばいい」

素っ気無く言われる。いや、彼はいつでも素っ気無いといえば素っ気無いのだけれど。それでも私としてはそんなふうに言われて嬉しいわけはないので、結局いつもどおり素直に彼に突っかかるのである。

「でも、あいつの優しさってちょっと違うでしょ」
「違うって、なにが」
「優しさの種類、っていうの?なんか、よくわかんないけど」
「わからないのに違うとか言ってんの」
「ニュアンスで分かってよ」
「……まあ、そうだな」

このままいつもどおり喧嘩になると思っていたのに、あのひとの話題だからか、彼が怒らなかったので少し拍子抜けした。

(あのひとってここにいなくても私たちを和解できるんだ)

いつものは和解っていうか、完全に喧嘩両成敗って感じなのだけれど、この際どうでもいい。
すごいな、って思うと同時になんだかそれがすごく面白いなと感じたので思わず笑ってしまう。突然笑い出した私を見て彼が怪訝な顔をした。
なんでもない、って言う私に、何でもないわけあるか、って突っ込む彼もなんだか面白いなって思ったので、いよいよ笑いが止まらない。
こんなことで笑っちゃうって私ちょっとやばいんじゃ、って思ったけれど面白いものは面白いのだ。仕方ない。


「何にツボってんの」
「え、いやあ、あはは、なんか、もう、全部面白くなってきた」
「なんだそれ」

本当彼の言うとおりなのでそれ以上言葉は返さなかった。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -