名前が福岡から神奈川にやって来て、早一年。相変わらず彼女は、博多弁を喋りながら過ごしている。 「博多弁って言っても、意味は分かるよな」 丸井に言われ、「確かに」と隣りで聞いていた仁王が頷く。彼らは、名前のクラスメートであり、部活の仲間だ。 「でも前にさ、意味が通じんで、ばり焦ったことがあるっちゃん」 思い出すのは、去年の冬。幸村は入院、そして柳は生徒会の仕事で、部活に参加出来ない日が続いていた。そんな中、真田は戦っていたのだ。パソコン、という敵と。悪戦苦闘していた彼を、見るに見かねた名前が、代わりに仕事をすることになった。 自主練で残っていた真田が部室に入ってきた頃、名前はパソコンでの仕事を終えた。USBを抜き取り、電源を落とす。そして、汗を拭いていた彼に、「パソコン、なおしとってくれん?」と言った。 すると、見るまに真田の顔が般若に。真田、なんかばり怒っとる!と、名前は動くに動けなくなった。何が、彼を怒らせたのか分からない彼女は、焦っていたのだ。 「名字!!!」 「はぃぃぃい」 「何故、壊した」 「え?」 「何故、壊したか聞いている」 「…」 ──壊した?私、何も壊しとらんっちゃけど。何言いよっとや? 黙っている名前にキレた真田が、バンッと机を叩いたつもりが── 「ちょっと!何しよっと!?今のでパソコン、壊れたっちゃないと!?」 「…」 真田は、パソコンを叩いた。しまった、という顔をする彼は、なんだかとても滑稽だった。 「そういや去年の冬、真田がパソコン壊しとったな」 「壊した理由、やっと分かったぜぃ」 「あん時はさ、ばり焦ったよ」 「でも、名前も壊したんだろ?」 丸井の言葉に、名前は首を横に振り、「私は、壊しとらんよ」と返す。 「博多弁で『なおす』って、『元の場所にしまっといて』っていう意味っちゃん」 「ってことは、名字は壊してなかったんじゃな」 「うん」 あの日以来、申し訳なさで真田は、名前に対して頭が上がらない。 *** 〜方言解説〜 ばり→とても なおす→元の場所にしまう |