大阪から神奈川に引っ越ししてきて2ヶ月が経った。最初は知り合いや同郷者がおらん環境でやっていけるんかって心配してたけど、思ってた以上にここの人らは親切やし、持ち前の明るさで楽しい学生生活を送ってる。まだイントネーションの違いにはちょっと慣れへんけどな。そんな新しい学校で、うちは伝統あるテニス部のマネージャーをさせてもろてます。何処から漏れたんか知らんけど、うちが前の…大阪の学校でテニス部のマネージャーやってたのを知ってた幸村と柳に勧誘されて、な。 「名字先輩、なんか機嫌いいっスね」 「あ、分かる?」 「鼻歌聞こえたっス」 確かに、今日のうちはいつもよりすこぶる機嫌がいい。それは今日は氷帝学園との合同練習やから。そして氷帝学園にうちの幼馴染みがおるから。まあ幼馴染みや言うても、あっちが先に転校してもうたから一緒におった時間は短かったけど。 「あ、氷帝が来たみたいっスよ」 「ほんまや!すぐ行くから先行っといて!」 「了解っス」 残ってたボトルに急いでドリンクを入れて、うちもみんなの元へ向かう。久しぶりに顔合わせるからお互い、顔が分かるやろか。 「よく来てくれたね」 「ああ、今日はよろしく頼む」 幸村と氷帝テニス部部長の会話に耳を傾けながら、幼馴染みの姿を探してると丸眼鏡をかけた男子と目が合った。数秒、視線を逸らすことなくじっと見つめ合う───。 「侑士!」 「名前!」 同時に名前を叫んで、手を広げながら前に出てくる。熱い抱擁…はせぇへんけど。 「うわーめっちゃ久しぶりやん!眼鏡かけとるから一瞬分からんかったわ!てか、なんで眼鏡かけとるん?目悪いんか」 「これは伊達眼鏡や。なんか直接目見られると恥ずかしいやん?」 「なんやねん、それ。…にしても恋しかったわ〜!」 「俺もや。名前のこと恋しかったで」 「もうめっちゃ恋しかったで大阪弁!」 「大阪弁かいな」 「大阪弁や」 「俺は恋しなかったんか」 「うん」 侑士もまあまあ恋しかったけどな、大阪弁が一番恋しかったんや!ここに来てから家族以外の全然聞いてへんかったからなあ。あまりの嬉しさに顔がニヤけそうになる。 「俺は久しぶりに会えるて聞いて、寝られへんかってんで」 「え、昨日一睡もしてへんの?」 「ああ、やからバスん中でバッチリ熟睡したわ」 「寝とる!それ寝とるから!一睡もしてへん言うわりにはなんやスッキリした顔してん なあ思とったら昼寝しとったんか!」 「昼寝とちゃう、朝寝や」 「どっちでもええっちゅーねん!」 「あーあ、名前は俺より大阪弁が恋しかった言うし…俺、泣いてまうで」 「あー泣け泣け」 「もう、いけずやわ」 「うっわ!なんやねん全然可愛ないわ!ほら見てみ、めっちゃさぶいぼ出たわ!」 侑士にさぶいぼが出まくった腕を突きつけつつ、みんなもそうちゃう?と横に目を向けると立海のみんなも氷帝のみんなも口を開けて、ぽかーんとした表情でうちらを見てた。めっちゃアホな顔になってんで。 「なんだか…漫才の掛け合いみたいだね」 「そう、だな」 「2人寄ればしゃべくり漫才っちゅーことやな!」 「…なんやねん、その『3人寄れば文殊の知恵』みたいな言葉」 「上手いこと言うたやろ」 「そやな。ちょっと座布団持ってきたるわ」 *** いけず→意地悪 さぶいぼ→鳥肌 |