世間一般は三連休といえども、私が三年生として登校している青春学園の男子テニス部はもちろんきっちり部活が入っている。原因は部長が真面目すぎるからの一点に絞られる。確か、一日の遅れは三日で取り戻されるものだ、だったっけ?とにかくそんなことを一年の頃からずっと私というより部員全員に言ってきていた。だけれども、私だって帰省する位のマネージャー休みは欲しい。そう部長の手塚に直談判しに行ったら何とか許可は取れた。お土産希望を訊いたら横○焼きそば味のせんべいを挙げてくるあたりなんとも言えない。中々にジャンキーな味だけど大丈夫かな、手塚。

そうして三連休を丸々生まれ故郷である秋田に帰省して過ごした私は、片手にお土産の大きな箱を持って見慣れたコートへと足を踏み入れた。コートを開ける金属音で私に気付いたらしい後輩たち二人が真っ先に駆け寄ってきてくれる。どうやら三年生はまだ来ていないらしく、私の方に同級生が寄ってくることはなかった。


「ただいまー」

「お帰りッス、先輩!」

「勿論お土産あるよね」

「はいはい。○手焼きそばせんべい」

「サンキューッス」


最初に温かい言葉を投げ掛けてくれた桃ちゃんとは対照的に片手を私に突き出したリョーマに部員全員分の横○焼きそばせんべいが入った箱数パックを渡す。受け取った瞬間に表情が綻んだのを私は見逃さなかった。リョーマは手塚と二人で楽しみにしていたもんね。奇遇だとでも言わんばかりのタイミングと表情で手塚と私に割って入ってきたリョーマは意思表明後、後で力強い握手を手塚と交わしていた。

一人で勝手に頷いていると、桃ちゃんが不意にきょとん、とした表情をみせた。どうしたんだろう。僅かに首を傾げる後輩を真似するように、自然と私も逆側に首を傾ける。


「あれ? 先輩、また訛りました?」

「あ、分かる?」


「また」というように、私は帰省すると必ずと言っていいほど方言を薄っぺらく身につけて東京に帰ってくる。大抵は三日くらい経てば自然と標準語のイントネーションに戻るんだけど、それまでは自覚症状有りまくりの訛りまくりだ。桃の顔が通常に戻りかけたとき、リョーマが人差し指を天に指しながら私の名前を呼んだ。


「ウチにいない方言キャラ、先輩で確定させちゃいましょうよ」

「ちょ、なんが言って――」

「おっ良いなそれ! クールとか堅物とか犬猿の仲とか種類は豊富だったけどやっぱ方言がいればまた一段とキャラが濃くなるぜ!」

「俺、氷帝とか立海とか見てて方言キャラがいると面白そうだなとは思ってたんスよ」


リョーマのトンデモ発言から始まったキャラ付け話には私の制止なんてあってないようなものだと改めて痛感させられる。盛り上がっているところ悪いけど、私は方言キャラになる気なんか全くないんだから! ちょっとだけ美味しいとは思っているけどさ!完全に二人の世界になっている空間から一歩身を引いて、ちょうどこちらへ歩いてきていた頼れるあいつへと口早に言葉を飛ばす。脈絡はこの際関係させない。


「手塚ー! おれ、普通のマネージャーポジションがええんだども!」

「……正気か?」


私が呼び止めた手塚は文脈が全くない単体の文で理解が及んだらしく、訝しげに眉をひそめてきた。言い方的にはまるで私が正気じゃないみたいじゃない。正気じゃないのはあっちの二人だって。ああ、頭が痛くなってきた。まずは手塚にきちんと私の思いを理解してもらわないといけない。後でえらいこっちゃを連呼しなければいけなくなる。

手塚、と彼の名を呼ぼうとして彼が全員集合の号令をかけた。気がつけばもう部活開始時刻の五分前を時計が示している。整列した部員の前に立った手塚を集団から少し外れた場所でじっと見つめていた。……どうしよう、嫌な予感しかしない。


「今日から普通のマネージャーは方言マネージャーに変更だ!」

「駄目!」


やっぱり! ほらみたことか!

間髪入れずに手塚の言葉を全否定する言葉を発する。何故だとでも言いたげな手塚の視線にわざと挑発的な視線をぶつからせてから、私は弁明すべく大きく息を吸った。


「大体こんたの似非んだどもら、三日間だけでおばあちゃんとかの方言が移っただけんだどもらなァ。一日東京に揉まれれば絶対方言なくなるから! ただでさえ濁音が多い方言んだどもら東京者のあんたらには聞き取りにくくて仕方がねでしょーに。でも仕方ねんだべ、寒い地方んだどもらそっちゃある分自然と口が開べがくなるだけでそれで音がこもっちゃうんだどもら! そうしゃべる方言なんだどもら!でもそっちゃあるせいで東京弁慣れてるあんたらには意思疎通面でぶじょごが掛かると思うから断固反対するわ!」


い、言い切ってやったぜ……!息が切れながらもドヤ顔を作って部員達を見ると全員固まっていた。そりゃそうだろう。今の持論に自分の言葉が聞き取りにくいし理解できないとは入っていたから。数秒すると、不二がいつもの笑みを浮かべるも眉間に微かだが皺を寄せながら一歩前に出てきた。


「……手塚、要約すると?」

「何だかんだ嫌がってはいるが展開的には美味しいからキャラ付けには大賛成だそうだ。皆、聞き取れなくても分からなくても優しく接するように」

「おれのしゃべらじ理解して!」


切実に曲解はしないでほしいよ手塚!その後の粘りも虚しく、私のキャラ付けは方言キャラになりました。発端のリョーマは後でせんべいを取り上げてこよう。


***

おれ→私(むしろ一人称)
こんた→こんな
んだどもら→だから
そっちゃ→その
開べがくなる→開かなくなる
ぶじょご→迷惑
青学の皆さん→本編<放課後
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -