私、名字名前は父の都合により富山から神奈川へ何とも中途半端な時期に引っ越してきた、才も無く、他人に一定以上の興味を持たない凡人である。見知らぬ地でストレスが溜まっているであろう家族に気を使い過ごす為、反抗期も何もありゃしねえ、というのが現状でして。

その為、今のところクラスメイトと悲しきかな、「友達」らしい事ができないのが現実だ。まあ、そっちの方が楽、と言えば楽なのだが。それではあまりにも悲しすぎる中学校生活を送らねばならなくなるので、とりあえずその隙間は必死に普段の学校生活で埋めているのである。

さて、ここらで私の基本的な部分は分かっていただけたろう。問題は私が転校してきたこの学校、「立海大付属中学」にある。どうやらこの学校の男子テニス部レギュラー陣は皆顔立ちが良いらしく、女子にとっては格好のエサ…失礼、目の保養となるようだ。

まあそんなのはどうでもいいのだが。知らん、こちとら今を生きるのに精一杯。

それで今日は人生初、屋上でさぼるという所業に出てみました。クラスメイトからは「幸運を祈ってるぜ…!」「やだ名前ちゃんったら素敵…」「フォローは任せとけ」との暖かいお言葉を頂いたので私は無言で頷き、立海に転向してくる際必要になるだろうと言われ買ってもらった人生初の携帯と、お年玉とお小遣いを貯めて買った音楽プレーヤーをポケットに忍ばせ屋上へと向かったのだった。



がちゃり。そうっと屋上へ出るドアを開き、私は思わず「すげぇ…」と呟いてしまった。私が居た中学では屋上はあまり行く機会も無かったし、行く必要が無かったので中学生の青春といえば青春である屋上は、未開の地だった。

からっとした天気に、心地よい風が私を安心させてくれる。


「よいせーっと…」


私は隅の比較的綺麗な日陰の部分に座り込んだ。良かった、此処ならスカートが汚れる事も無いだろう。そう思い小さく笑う。それにしても今日はいい天気だ、と音楽プレーヤーを取り出しつつ空を見上げていると、ガタン、と少し大きな物音。此処からでも香ってくるこの「ニオイ」に、私は思わず鼻を摘んで息を潜めた。この香りは、確実にミーハーな女子生徒達がつけてそうな香りだ。臭い。超臭い。その思いの丈をクラスメイトに小さく愚痴った所、…彼女達はテニス部好きでは無い子達だったのだ、このクラス最高だわ…彼女達は苦笑して、転校してきた私には刺激が強すぎるだろうけど頑張ろうね、と飴ちゃんをくれた。いい子達だ。


「…そんで、何の用かの?」


この声はー…ううん、多分3年の仁王って人、かな。知らないけど。知りたくもないけど。クラスの子が男子も揃ってわざわざテニス部の事を教えてくれたのを此処で感謝しておかねば。さんきゅう、クラスメイトの皆。


「あのね、仁王くん、私と付き合ってくれない?」


何事だ。これはアレか、俗に言う告白か、うえ、面倒な現場に遭遇してしまったようだ。何てこったい!


「悪いがの、今はテニスに集中したいんじゃ…それに」


おまんもどうせミーハーじゃろ?

そのさも当たり前の様に告げた発言に私は戦慄した。なんだなんだなんだなんだ、この学校のテニス部は女が全部自分達の虜だとでも言いたいのか気持ちが悪いぜ不愉快だぜ畜生が!


「酷い、最低!」


そんな声と共にパチン、と乾いた音が屋上に響いた。考えるまでも無い、告白してきた女の子が仁王先輩を叩いたのだ。その後女の子は泣いて屋上を去っていった。

…やれやれ、この学校の女子も女子か…?呆れちゃう。はー、と溜息をつき今度こそ音楽プレーヤーを手にしてイヤホンを耳にしようとしたところ、横から声が。わー、いやな予感しかしないよおかあさーん


「ん?お前さん1年か?見ない顔じゃが…」


ひょこっと現れたのは銀髪に黒子付きの美形…あー、成る程、こういう系の…あーはいはいわかりますわかります。


「え、あー…最近転校してきたので…」


うっかりばっさり富山弁で喋らないようにできるだけ敬語で喋る。怖いよ怖いよ怖いよおかあさあああああん!!!私の心臓はどっくんどっくん死ぬのではないかと思うくらいに早鐘を打つ。


「くっくっくっ…安心せえ、流石にそんな怖がってる後輩に手ェださんけぇ」

「…こわくさいあんまやのー…」


ぼそり、その私の一言で場の空気が一気に固まる。やべえー、富山弁出しちゃったよー、やべえよかあさーん!


「ほーう、中々いうのー…お前さん、富山からきたんか?」


こくり、私は頷いた。富山弁をクラスメイトの前で言っちゃった時のあの羞恥心ったら無いぜ母さん。皆寛大で差別しないで受け入れてくれたのがすっげえうれしかったけど。


「そうやちゃ、富山から来たんやちゃ、でもこの学校可笑しいわ」

「んー?」

「女子が過剰に化粧してテニス部のレギュラーさん達にきゃいきゃいして、耳の公害もいいとこやちゃー、あんなに濃い化粧して、ざっくらしい、子供なんやから年相応の顔でいいわー、ほんと見ててだやいわ」


ケッ、とやさぐれたように吐き出した。少しの沈黙の後、私はチラッと仁王先輩を見た。先輩は面食らった顔をしていた。美丈夫が台無しですよー。ハッとした仁王先輩は、私の頭をくしゃくしゃに撫で回した。


「やーめーれー」

「嫌じゃ、面と向かって言ってくれる女子何てそうそうおらんかったからのー、おーよしよし」

「やめ、やめえ!!!…てください!」

「面白いからいやなり」

「いややっちゅが!!」


そんな攻防戦を繰り広げ、私はチャイムと共に教室へダッシュで帰った。それはもう、Bダッシュで。帰ってクラスメイトに出来事を離すと、クラスメイトは皆真顔で暫く屋上駄目だ、と言ってきた。どうやら私の身を案じての言葉らしいので、私は暫く屋上へは行かなかった。

勿論、出て行く時に仁王先輩には忠告させてもらった。


「私を巻き込もうとか止めてくださいね、巻き込んだらそのチョロ毛、引き抜いたるからな…?


うふふ、ざまあ。


******

〜やちゃ=語尾
こわくさい=生意気だ
あんま=「兄」のこと
ざっくらしい=汚い、不潔、だらしない
だら=馬鹿
だやい=だるい
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