それは、いつもの部活日和の晴天の日の事だった。

テニスコートはガヤガヤしてるし、ギャラリーも多い。お前ら部活は?といいたい位キャッキャしている女子たちを尻目に、私、名字名前は淡々とマネージャーの作業をしていた。


相変わらず白石は絶頂絶頂うるさいし、謙也はスピードスターとか古いこと言ってるし、一氏と小春ちゃんはめっちゃカオスだし、師範の波動球でビビる後輩は後を絶たないし、千歳はテニスしないでどっか見てるし(どうせ何してるか聞いたところで「空から女の子降ってこんかね…」とかジブリに感化された事を言うだろう)、健ちゃんは影薄いし、光はダルそうに部活やってるし、金ちゃんのスーパーウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐で負傷する人も出るし、オサムちゃんは競馬に行っている。

大阪に来て暫く絶つが、たまに故郷の北海道の寒さが恋しくなる。こっちは雪が北海道ほど降らないので、それほど寒くもならない。

基本何かと冷めているので、お笑いの大阪と言えども朝礼の校長のギャグで爆笑も出来なかった。

そんな事をグダグダ考えているうちに、白石が皆に号令をかけた。


「今日の練習ここまでやー!ちゃんと寄り道せんで帰るんやでー」


ほざけ!何を言っている!寄り道をするのは中高生の特権だろう。青春大事。今のうちに青春しておかなくてどうするんだ。The青春。

おばさんくさい事を考えながら部室で部誌を書いていると、レギュラー陣が入ってきた。


『お疲れ様ーそこにタオルとドリンクあるから勝手に使ってくれ』


何だかんだ言って私は結構放任だったりするのだが、最低限仕事はやっているので文句は言われない。

そんな時、無邪気すぎる明るい声が部室に響いた。


「なぁなぁ白石ー!ワイらっていつまでテニスやっとるんやろなー?」


急に大人びたことを言った金ちゃん。いや、むしろ子供だからこういう発想に至るのか!納得納得。


「せやなぁ・・・大きくなってもずっとしてるんとちゃうかな」


大きくなっても、ずっと・・・か。


『ブフッ!!!!!』


「は!?名前どうしたん!?!?!?」


突然の事に驚きながら叫びに近い声を上げる謙也。


『だって考えてみたらなまらシュールだべさ!ハッハッハ!!!いい年こいた白石達が絶頂だの言ってるのおもしいっしょや!金ちゃんもその歳なったらだはんこく事もないっしょ!アハッハッハ!!!!!わ、笑いすぎてあんべ悪くなってきたっしょ…白石大人になってもまだ包帯さ巻いとるんだべか?グフッ!!あ、あずましくしないとダメさね・・・ククク』


爆笑と共に毒を吐く名前。

もともと関西育ちではなかったので常に標準語だったが、謎の方言を喋りながらずっと笑っている。

そして一番初めに口を開いたのは、なんとも意外な事にホモガッパ…いや、一氏ユウジだった。


「名前、お前小春が怖がっとるやろ!!死なすど!!」


そう言ったユウジは、ベシッ!と名前を叩いた。しかし一番最初に驚きから回復するとは、愛の力はすごいのだろう。きっと。


『一氏に言われるとか…私もなまらはんかくさいっしょ…急にはたくのはどうかと思うべさ。チッ、しくった…』


少々何を言っているか理解できないレギュラー達。


「なぁ名前…方言出とるで?何言ってるか分からないっちゅー話や」

「謙也さんの言うとおりですよ、名前さん。千歳先輩以上に分かりづらいっすわ」


謙也と光の言葉でハッとする名前。次の瞬間、顔を真っ赤にして目を伏せた。


『す、すまん・・・どうも気が緩むと地元の方言が出てしまうんだ・・・』


さっきの態度とは裏腹に、しどろもどろになった名前を見て、レギュラー達は苦笑した。


「ばってん、さっきの方言はなんね?聞いたことないっちゃ」


頭の上から降ってきた言葉は千歳からのものだった。興味深々である。


『あぁ、あれは北海道弁だ。おい・・・?お前ら私北海道から転校してきたんだぞ?』


「ホンマ!?!?!?え!?」


驚いた、と言わんばかりに目を見開く白石。


『え、お前仮にも私と同じクラスだろう。おまけに部長だろう。そんくらい知っとけ』


冷めた目で白石を見つめ、名前はため息をついた。


「まぁ、でも新しい名前ちゃんを見つけれてええやない!方言バリバリでかわええ〜!ロックオーン☆」

「浮気か!!死なすど!!」


あれからというもの、気が緩むと名前は方言が出るようになった。


***

なまら→とても
だはんこく→わがままを言って騒ぐ
あんべ→具合
あずましい→落ち着く
はんかくさい→愚かだ
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