妄想置場 | ナノ
サービスの一環(Wとトロンと2盗)



※世代無視パラレル










今日の朝。特に予定が入っていなかったので適当にカードを整理していたら、どういう風の吹き回しか、トロンが俺と買い物に行きたいと突然言い出した。平常なら買い物はVと俺で行く。更に言ってしまえば昨日買い出しはもう2人で済ませたばかりなので正直外出は面倒だった。不服ではあったがトロンの命令は絶対とVがうるさいから仕方なくカードをまとめて支度をし、トロンと外へ出たわけだ。
天候が良く街には人が溢れていて、トロンはその人混みの中をとことこ歩いて行く。そういえばトロンはこの小さくなった姿ではあまり外出したがらなかったはず。ならばトロンがわざわざ自ら出向いて買いたい物とは何なんだ。そしてそれに俺が必要な理由とは。


「あったあった!ここ!」
「…ケーキ屋?」


トロンの歩みが止まり一つの看板を指差す。入ったことは無いがこの辺りでは割と有名なケーキ屋だ。名前位は知っている。


「ケーキくらい、俺やVに頼めば買ってきてやるのに」
「分かってないなあW、今日が何の日か知らない?」
「…何かあったか?」
「ここのケーキ屋さんのサービスデイさ。今日だけ、いろんな特別メニューが出るんだよ。僕は実際にそのメニューを見て買うケーキを決めたかったの。Vと来ようとも考えたんだけど、Wの方がお金出してくれるかなあって」
「…へー」


最後の方は置いておいて、サービスデイ。それは知らなかった。成る程、よく見れば店先のボードにspecial menuの文字。近くを通りかかった子どもたちはその美味しそうなスイーツの写真に釘付けというわけだ。
トロンが早く入ろうよと俺の服の裾をつんつん引っ張るので大してボードを見ずに店へ入る。店内は明るく賑やかで子どもとその親で溢れかえっていた。俺とトロンもその関係には変わりないのだが現在ショーウィンドウにくっ付く勢いでケーキを眺めているのは親の方。


「すごいねえ、流石スペシャルメニューだね」
「普通のケーキと何か違うのか?」
「当たり前だよ!トッピングが違ったり限定の風味があったりおまけが付いてたり」
「わかった、わかった。じゃあさっさと決めろよ。人が多くて暑苦しいから早く買って帰ろうぜ」


俺が言うとトロンは少し口を尖らせてそんな直ぐに決められないよーとショーウィンドウに向き直った。買うケーキが決まったら呼べよとトロンに告げて人が少ない店内の壁に寄りかかる。ウィンドウをキラキラした目で見つめる子どもたちを傍観していると、ふと自分もこんな時期があったのかと考えた。…いや、俺はそんなにケーキに執着していたわけじゃない。思い出すのはあるドールショップ。家族で出掛けた行き帰りの道の途中にあった店。外から見るショーウィンドウには綺麗にカスタムされた人形たちが並べられていて、当時高いものには手が届かなかった俺にとっては憧れの窓だった。
そういえば父さんは昔から甘いものが好きだったっけ。子どもたちの中にたまにちらちらと見える特徴的な三つ編みを目で追いながら記憶に浸っていると、突然その三つ編み頭がコツンと別の頭とぶつかった。
三つ編み頭もといトロンと、ぶつかった相手の子どもが顔を合わせる。先に口を開いたのはトロン。


「ごめんね。ケーキを見るのに夢中で気付かなかったんだ」
「お、おれも。ごめん。…ケーキ、うまそうだよな」


何だ、端から見れば普通の子ども同士お似合いじゃないか。俺が口出す必要もなかった。それはそうと隣の奴にぶつかるほどケーキに夢中だったのか。子どもらしいと言えばそうなのだが。というか、トロンはケーキをまだ決められないのか。


「君はどのケーキにするの?」
「おれはー、これとか、これがいいなって思う!」
「あっ、僕もそれにしようか迷ってるんだ!」
「ほんとか!お前とは気が合うな!」
「そうだね!ねえ君、名前は?」
「おれはねー、」

「…おいトロン!!」


直ぐには決められないと言うから待っててやってるのに、いつの間にか見ず知らずの子どもとお喋りか。見兼ねた俺はトロンに近付き奴の頭上で名前を呼んだ。


「なあに、W。ケーキならもう決めたよ」
「なっ…決めたら俺を呼べって言っただろ!」
「そんなに声張り上げなくてもいいじゃない」



トロンは俺を待たせていることを少しも詫びる様子が無い。それどころか、会話を邪魔しないでよとばかりに俺を見上げて目で訴えている。隣にいる子どもまでよろしく俺を見つめている。この辺りでは珍しい褐色肌に色素の薄い髪の少年。きっとトロンの背丈に相応しい年だろう。


「…ちっ、お前まで何見てんだよ」
「にーちゃん、盗兄とおんなじとこに傷がある」
「とーにい?」


何だそれ、と返そうとした時、その少年の頭に手が乗せられた。視線を上げると、少年によく似た髪と褐色の肌。この少年の年齢にプラス10したような男がいた。違う所と言えば、右目から頬にかけての傷跡ぐらい…ん?待てよ、俺にもその場所に傷が。



「俺様の弟に何か用か、オニーチャン」


男は俺を警戒しているのか、少年の肩を引き寄せた。弟。確かにその少年はこの男にそっくりだ。年の離れた兄弟ってわけか。
取り敢えず、こんなケーキ屋の中で騒動になってはいけない。挑発はナシだ。


「いえ、俺はこいつの連れです。こいつ…トロンが、貴方の弟と気が合うみたいで」
「ほー。盗人、そうなのか?」
「うん!!えっと…おまえ、トロンっていうの?」
「そう。僕、トロン。君は盗人っていうんだね」


相手の名前が分かった所で握手するトロンと盗人という少年。何というか、ミスマッチ。白手袋と健康的な褐色の組み合わせは異国同士の首脳会議の挨拶の様だ。


「そうかそうか、盗人に新しい友達かあ。俺は盗人の兄の盗だ。あんたは?」
「…俺はWです」


何で俺たちまで自己紹介してんだ。しかも下の方ではしっかり俺たちの会話を聞くトロンと盗人。


「ふぉー?トロン、ふぉーってトロンのにーちゃんじゃないのか?」
「違うよ。彼は…そうだね、僕の親戚のお兄さん。そうだよね?W兄さん」
「ゥエ…」


流石に今の呼ばれ方は悪寒を感じた。確かに此処でトロンが俺の事を息子だなんて言えばフェイカーの耳に入りかねない。だがもっとあるだろう、こう、…いや無いか。トロンが咄嗟に答えてくれただけでも良かった。


「そ、そう。昨日から俺の家で預かってんだ」
「僕W兄さんだーいすきなの!」


ぎゅうっと俺に抱き付くトロン。俺が何も言えないのを良いことに好き勝手猫被りやがって!あとその呼び方は止めろ!
暫く俺たちの一方的スキンシップを見ていた盗人が、はっと目を見開きトロンと同じように盗に抱き付いた。



「おれだって盗兄だーいすきだもん!」


彼はトロンと張り合う気らしい。対抗する視線を送ってくる盗人を見て、トロンは楽しげに口角を上げた。その台詞を待ってましたとばかりにあっさり俺から体を離すと、近くのウィンドウのケーキを指差し店員に告げた。


「このケーキ頂戴!」
「はい、これね。良かったわねぼく、このケーキは今日最後の一つよ」


突然のことだったので俺は慌てて財布を取り出しトロンの傍に行く。何でまた唐突にケーキ頼んで…


「あああ!!!」
「どうした盗人」
「あれ、おれが食べたかったケーキ…!トロンてめえ!はめやがったな!」


盗人が涙目でトロンに暴言を吐く。どうやら状況に追い付いてなかったらしく、先を越され会計を終えてケーキの箱を抱えるトロンに牙を向いている。出会った時のあどけない顔は消え眉間に皺が見える。俺が言うのもなんだけど、将来良い顔芸使いにな…いや何でもない。

トロンはそんな盗人ににっこり笑うとスタスタと出口へ向かった。何も無しかよ、後始末は全部俺任せか。
とりあえず盗人にごめんなと誤り、何か代わりにとポケットを探るとまあ当然だがデッキとカード数枚が出てきた。ちっ、1枚くれてやるか。俺はすっかりふてくされている盗人の前にしゃがみ込む。


「なあ盗人。これ知ってるか?」
「…あっ、デュエルするカード!」
「そうそう。これ1枚やるから、トロンを許してやってくれ」
「ギミック・パペット…えっ、これくれるの!?ふぉーって良いやつだな!サンキュー!!」


正直イメージが悪い方に傾くギミック・パペットのカードだったので不安だったがこの少年は俺のカードを輝いた目で眺めている。ほっと胸をなで下ろし、俺は盗の方にも挨拶をして店を出た。周りを見回してもトロンはいない。
ホテルへの道を少し行くと、先の方にトロンの後ろ姿。その小さい歩幅には楽に追い付くことが出来た。


「トロン!」
「やっと来たね、W」
「お前のせいだろ…」



大事そうにケーキの箱を抱えるトロンに半ば呆れ、盗人をあやしてきた事を話そうかと思っていたが止めた。どうせ大した褒め言葉も貰えないだろうし。暫く沈黙が続き信号待ちの為歩みを止めた時、トロンが唐突に口を開いた。


「ありがとうW」
「…は」
「盗人のことさ。あの後、彼を宥めてきてくれたんだろう?」
「あ、ああ」
「君ならそうしてくれると思ってたよ」


予想外の展開に驚きつつ、内心では久しぶりに貰えた父からの評価に舞い上がった。しかも自分に期待してくれていたなんて。思わず口元が緩み、何だか照れ臭くてトロンの顔を直視出来なかった。トロンとの外出も楽じゃない、でも偶になら付き合ってやってもいいかな。

















「…つーかトロン、超大人気ねえ」
「今は子どもだもん!」




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -