妄想置場 | ナノ
promise(ちまWとちまVとバイロン)



※過去話









「暇だよにいさま」
「ああ」
「何かして遊ぼうよにいさま」
「ああ」
「何して遊ぶ?」
「ああ」
「…にいさま?」


今日は父さまとクリスにいさまが"けんきゅうじょ"でお仕事するから朝早く出かけてしまった。残されたぼくとにいさまは勉強にも飽き、ソファで寝っ転がっていた…はずなのに、少し前からにいさまがちゃんと会話してくれない。不思議に思ってにいさまを覗けば手には1枚のカード。


「にいさま!カードばっかり見てないでぼくと遊んでよ」
「ああ」
「も…、にいさま!ちゃんと話聞いて!」
「んー」

にいさまはカードをうっとり見つめながら生返事。そんなにそのカードが好きなのだろうか。
ふと、先日の出来事が蘇る。しめしめ。


「えい!」
「…っ!?何すんだてめえ!返せ!!」

ぼくは背後からにいさまのカードを取るのに成功。この間の仕返しだ。余程カードにしか目がいってなかったのか、にいさまは全然ぼくの行動を読めなかった。
まったく、ぼくを差し置いてそんなに夢中になるこのカードは何なんだ。
とりあえず種類は予想通りデュエルモンスターズ。にいさまもぼくもクリスにいさまから教わっているゲームのカードだ。さて問題は表面…


「返せ!!」
「う、わっ」


にいさまがカードを取り返そうとぼくの手を掴んだので、振り払う。それでもにいさまはぼくより一回り大きい体ですぐに詰め寄る。ぼくはもっとカードが見たかったから何とか逃げようと長いソファの上をぐるりと走った。いや、走ろうとした。



「ははっ、おれから逃げられると思った?」
「むうう…痛いよにいさまあ」


走ろうとした瞬間、後ろから襟を引っぱられて背中とソファがくっつくようにひっくり返ってしまった。その上ににいさまが覆い被さる形でぼくの両手首を押さえつけている。


「はなして!」
「じゃあカード返せ」
「返すよ!ぼく、にいさまが何のカード見てるのか知りたかっただけだもん」
「え?」


予想外の答えだったのか、にいさまは顔にはてなを浮かべてぼくの手首からするりと手を離した。
自由になった手で、さっきにいさまから取ったカードをまじまじと見る。
そこに描かれていたものは、いつもにいさまが自慢してくる強そうなモンスターではなく、どちらかというとかわいい。人形だろうか、関節がぼくたち人間とは違う。カードの中にはそんな女の子がいた。
ちらりとにいさまを見ると、頬がほんのり赤く、口はもごもごとまごつき、普段の態度からは考えられない姿があった。


「これかわいいね」
「……」
「にいさま、こんなにかわいいカード持ってたんだ」
「…この前買ったパックに入ってた」
「ぎみっくぱぺっと、かあ。ぎみっくって何?」
「…仕掛け。ギミック・パペットはその仕掛けで動く人形の総称みたいなもん」
「へええ、この女の子も何か仕掛けがあるんだ」
「……ああ」


質問に答える度ににいさまの頬は赤くなっていく。もう耳まで真っ赤だ。ぼくにはそんなにいさまが珍しくて、いつの間にかカードではなく無意識ににいさまをじっと見つめていた。その目線に気付いたにいさまはやっといつもの鋭い目になってぼくを睨んだ。


「何だよ、見たらさっさと返せ!」
「は、はいにいさま」


カードを返せばぱっとぼくから離れて、ソファに座り直した。ぼくも起き上がりにいさまの隣に座る。



「ね、にいさま。今度デュエルでそれ使ってよ」


にいさまは一瞬驚いて、直ぐに目を伏せてため息をついた。



「…おれギミック・パペットまだこれしか持ってねーの。でも、もっとカード集めて、ギミック・パペットでデッキつくれたらお前に見せてやるよ」

おれの圧倒的勝利をな、と、にいさまはとっても楽しそうに微笑んだ。
カードの中の女の子も嬉しそうだった。



「にいさま、ぼくもがんばってルール覚えるから、そしたらにいさまのギミック・パペットデッキとぼくのオーパーツデッキで勝負しようね!」
「いいぜ、絶対おれが勝つけどな」
「ぼくが勝つよ、オーパーツモンスターは強いもん」
「はっ、ギミック・パペットの方が強いに決まってる」
「でもさっきのカード、アタックもディフェンスも0だったよ」
「あれは効果モンスターなんだよ!あれをうまくリリースしてもっと強いやつを出すの!」
「リリ…?もー、よくわかんない!」
「んだと…っ!!」
「こら、2人とも。喧嘩は止めなさい」


いつの間にかソファの上で取っ組み合いになっていたぼくたちに突然優しい声が注がれた。聞き慣れた心地良い低音。



「と、父さま!?」
「何で、今日はあにきとラボに…」
「思いの外仕事が早く片付いたんだ。クリスも部屋にいるよ。それより、いつも言ってるだろう、高貴な心を忘れるなと」


父さまが帰ってきたことで、さっきまで戦場だったソファは反省スペースになった。ごめんなさいと2人で謝れば父さまはにっこり笑って、ぼくたちの頭を撫でた。
そしてにいさまが持っていた例のカードに気がつくと、見せてごらんとにいさまに手を差し出した。にいさまは少し躊躇い、そろそろとその手にカードを乗せる。



「…ほう、ギミック・パペットか。こりゃあお前は近々面白い決闘者になるかもしれないな」
「っ、ホント!?」


本当だとも、と父さまがカードをにいさまに返す。にいさまは目をキラキラ輝かせて父さまとカードを交互に見やり、得意気に部屋を後にした。きっとクリスにいさまに伝えに行くのだろう。ぼくもクリスにいさまに会いにいこうとソファを降りた。
すると部屋を出る直前、父さまがぼくを引き止めた。振り返ると、ソファに腰掛けた父さまがぼくを優しく見つめながら口を開いた。



「先史遺産デッキ、期待しているよ」



ぼくは大きく頷いて、クリスにいさまのいる2階へ向かった。















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アークライト家で文を書くの何が大変って、まだVとWの名前が分からない所です。なんとか呼ばずにすんだ。
あとセーラー服の襟って引っ張りやすそうだよね



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