■13
****年**月**日(*)
バクバクと、大太鼓を思い切り叩いたような大きい音が左胸から聞こえる。 呼吸が荒くなり、視界の端が暗く歪んでいく。 恐怖、混乱と驚愕。
「っ……」
どうしよう、このままじゃ……。なのに、どうすることも出来ない。 怖い。怖い。声が出ない、身体も動かない。強力な接着剤か何かで全身を固められたようだ。私だけ時間が止まったように、短いはずの一瞬が、長く感じる。
息が出来ない。 私は、−−
・ ・ ・
柔らかい感覚に包まれていた。 辺りはほわほわとした、綿菓子に沈み落ちたような甘い空間。 息を吸い込めば、脳を蕩けさせるような扇情的なものが、身体に入り込んでくる。
(私……、)
思考回路が壊れてしまいそうな程、幸せな気分に満たされている。 出来ることなら、このまま意識を飛ばしてしまいたいほど。出来ることなら、この心地良い感覚を味わったまま、消えてなくなりたいほど。
(……どうして)
暖かいこの世界は、今までに経験したことのない悦楽を与えてくれる。 もう、戻りたくない。戻れない。
(どこに、私の帰る場所があるの)
閉じ込められている。大きく頑丈な箱に。私だけの満たされた箱に。 何重にも鍵を掛けられている。出られないように。出ようとしないように。 窓のない空間に一人でいる。危険な事がないように。外を見ることのないように。
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