オレンジ色の空、いわし雲。病院の屋上で車椅子に乗った俺とその隣に立つ彼女。
ぎゅ、っと握られた手から伝わる微かなぬくもりと、頬を掠める少し冷たい風が心地よかった。
「精市」
俺の名を呼ぶ彼女の声が俺の心を落ち着かせる。ゆっくりと流れる雲を眺める。
「ちあき」
呼び返すと、俺の手を握る力が少し強まる。
「ねえ、精市」 「うん?」
「私ね、精市とずっと一緒に居る」 「…離さないよ」
空を見つめながら、ゆっくり流れる時間が十年先も百年先もずっと続けば良いのに、なんて…叶うことのない願いを胸に秘めて。
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