「ねえ神尾くーん…」 「んー」 「お勉強しないんですかー…」 眉を下げ困惑した表情で、机に突っ伏した神尾の肩を軽く人差し指で突くちあき。 ちあきの視線は、微動だにしないまま歯切れの悪い返事を返す神尾と、机の上に無造作に置かれたノートや意味のわからない記号だらけの教科書、鉛筆や赤ペンなどの筆記用具とを右往左往する。
「ね、ねぇ、神尾くーん…」 「あーい…」 「お勉強しよ、ね?」 あまり乗り気では無いのか、神尾はゆっくりと起き上がると一つ溜息を吐いた。 自分と勉強するのが嫌なのか、とマイナスの可能性も考え、少し俯くちあきに、小さく微笑むと神尾はちあきの頭に手を伸ばす。 「別に、ちあきちゃんと勉強すんの嫌なわけじゃないからなー?」 図星を突かれ、目を丸くさせるちあきを見て可笑しそうに笑う神尾。 ちあきはむっと頬を膨らませるが、その事もプラスされ更に口角が上がる神尾にどうしようも無くなって苦笑いを浮かべた。
「まだ音楽ならやれたんだけどなー」 立てた膝に顎を乗せ、鉛筆を掴むとつまらなさそうに卓上のノートを見つめる神尾に、ちあきは一つ提案を出した。 「神尾くん、ポトフ好きだよね? 夕方までに提出分終わったら、今度作りに来てあげる!」 にこにことしたちあきの顔を今度は神尾が目を丸くして見つめる。 神尾の素早い反応に笑みが漏れるちあきは、「どうかな」と付け加えると小さく首を傾げた。 「ぜんっぜんいいよ!って言うか来て欲しい!」 こくこくと頷く神尾に、にこりと微笑むと利き手で鉛筆を持ち上げた。 「さあ、やろうか!」
カラ、と小さく音がした。 直後に二人分のドサッという倒れる音。 「疲れたぁー…、お疲れ様、神尾くん」 「ちあきちゃんもな。お疲れ様。もう手動かねぇよ」 右手の方へと視線を動かし、苦笑する神尾に釣られたように苦笑するちあき。 二人でほぼ同時に長い息を吐いて、一つ間を置いたあとに二人で吹き出した。 「そだ、覚えてるよな、約束!」 「ポトフ? 覚えてるよ。そうだ、明日お休みだし、お昼空いてる?」 「空いてる! 来てくれんの? やったー!」 寝転んだまま両手を上げて喜ぶ神尾に近寄って小指を差し出すちあき、その小指を見ると、自分の小指を絡ませ神尾は歯を見せて笑った。
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