転校したい(切実)の続きっぽいもの
私は先程、気分上々の所をピアス付け男から行き過ぎたセクハラを受けました。
「んんんんむかつく〜〜!! くそむしめ…! 絶対許さん…。きっとアイツは頭のネジが抜けているに違いない…一本…いや二本……それどころかネジなんか無かったりして! まぁ仕方無い、そういう人間だから」 「桜庭さんやんな?」
我が校のテニス部はほぼ全員、頭の何処かがバグってらっしゃる、という偏見を私は持っています。ぜんざい…いや、財前(先輩)は勿論だが、第一印象はとても良かったあの忍足先輩も、財前とホモってるあたり何処かイってらっしゃるんだと思う。
「あれ、ちゃう?」
そんな大変な部活をまとめる、部長という立場の彼も、もはや変態ウイルスに感染しているという事は、きっとわざわざ私が言わなくても分かってくれるはずだ…。
「うーん? 髪の匂いからして、桜庭さんやねんけどなぁ」
なのにクラスの女の子達は全然理解してくれない!テニス部はおかしい、と話しても、彼女達は「勘違いでしょ」の一言で済まし、頬を赤らめてこう言うのだ、「白石先輩って、容姿端麗・スポーツ万能・成績優秀の三拍子揃った理想の王子様だよね」と。 私は思うんです。白石先輩が理想の王子様像なら、私の理想はエベレストよりも高いんじゃないですか?
「桜庭さ」 「じゃぁあああかしい!! 聞こえてます!!!」 「あぁ、やっぱ桜庭さんや、こないな所でどないしたん? 何か考え込んでるようやったけど…力になるから、なんでも言いや?」
原因は貴方かな☆ 包帯をぐるぐると巻いた左の手で私の肩に触れる。そう言えばこの人、前にこの手は毒手が…とかなんとか言ってたっけ…。まさかこの毒手とかいうのの中に変態菌がうようよと…。
「離せですこの野郎!!」 「山吹のバンダナの子みたいになってんで? そんな興奮せんでも大丈夫や」
もしかしてこの包帯を取れば白石先輩の気持ち悪い対応が無くなるのか…!?取るしかない。 私は肩に置かれていた白石先輩の腕をガシッと掴んだ。
「な、なんや? 捕まえんでも俺は逃げへんで? もしかしてもっと俺に触れたいって思ってくれたとか? そ、そんな……! 勿論、大歓迎や…」
何故か頬を可愛らしく赤く染めてくねくねと動いている白石先輩本体は無視し、包帯の端っこを必死に探す私。 だが、なかなか端っこは見つからない。
「ちょ、ちょっと桜庭さん何してるん? 俺の手が当たってんで胸に、ちょっと小ぶりで揉み心地が良さそうな、その胸に当たってんで? アカンって…こここ、購買やし…」 「うるさい!!! っつか白石先輩の包帯の端っこどこなんですか」 「包帯の端っこ? ……もしかして包帯解こうとしてるん? …アカンアカン! いくら桜庭さんでもそれはっ…オサムちゃんとの約束で…」
慌てた様子で、白石先輩は私を優しく引き離して左手を背に隠した。 なんだって渡邊先生が……。まさか!!!まさか、渡邊先生までもが白石に毒されているのか…?いや、まさか!それはないだろう…常識的に考えて…。それ以外なら何だって言うんだ…!ハッ…!?財前は忍足先輩と、…白石先輩は渡邊先生と……!?学生同士ならまだしも、教師と学生ならどんな濃厚なんだろう…。背徳的な恋愛…、禁断の…禁断の年の差恋愛!?放課後の保健室、ベッドに横たわる白石先輩に覆いかぶさる渡邊先生……。
「……桜庭さん? 顔赤いで?」 「ちょっと黙っててもらえますか? 今大事な所なんで…」
白石先輩は不思議そうに首を傾げ、近付いて膝裏と背に手を差し込んで、私をそのまま軽々と持ち上げた。
「ちょっと!? どういうつもりですか!」 「保健室連れて行こうかと思って。あんま暴れると落ちるで?」 「ひぃぃぃ穢される!! やだあ降ろしてくださいいいい!」
バタバタと暴れる私に、困惑した表情を向ける白石先輩。 と、そこにタイミング悪く忍足先輩が通りかかった。それに気付かないわけもなく、私は忍足先輩に向かって叫ぶ。
「助けて忍足先輩いぃい! 白石先輩が降ろしてくれないんです!!」 「おぉ、謙也! 丁度良かった、桜庭さん抑えてくれへんか? さっきから暴れててなぁ…」
気付いた忍足先輩は私達の方を見ると、何故か顔を真っ赤にさせて顔を手で覆った。指の隙間から見ている事はバレバレだけど。
「お、おおお前らこんな所で何やってんねん!? 桜庭ちゃんパ、パンツ丸見えやで……っ」 「え? ほんま? 謙也位置交代せえへん?」 「忍足先輩のアホ!!! もっと早く言え!! 見るな!!! 寄るな!!」
興奮したのか白石先輩の腕の力は緩み、今のうちだと私は激しく暴れ、白石先輩から解放された。だが、そのまま落ちたのでとてもお尻が痛い。
「桜庭ちゃん、大丈夫か?」 「そない足開くとパンツ見えるでー、写メってええ?」 「撮るな! 忍足先輩も見ないでください!!! もう!」
伸ばされた忍足先輩の手をパシンと叩いて、立ち上がる。一刻も早くこの場から離れたかった私は、変態共に振り向きもせず購買から全速力で逃げた。 廊下で、誰かと肩がぶつかって舌打ちされた。そこまでやることないんじゃないですか?!!?とか思いつつ顔も見ずに謝った。 自分の教室の、自分の席に着いて大きな溜息を吐く。なんだか一週間分の体力を使い切った気分だ…。 ぎゅるる、と鳴るお腹を可哀想に思いながらも、私は昼休み終了まで疲労で動けないのだった。
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