「桜庭」
「ヒィィ…柳先輩ィ…」

私の背後から聞こえてきた声にビクリと肩を震わせた。恐る恐る振り返ると声の主は私の先輩であり、また私が苦手としている人物。眉目秀麗、容姿端麗とかそういう言葉が似合いそうな彼の本性を知っているのは、私くらいではないだろうか。

頭にぽんと乗せられた大きな手に体が強ばった。逃げろと脳が警告を出している。今すぐ彼の元から逃げなければどうなるかわからない。手のひらにじわりと汗が滲んでくる。ずり、と足を後ろにずらせば彼は私の腰に腕を回しそのまま引き寄せ、体を密着させてきた。

「あの、離してくれますよねえ」
「俺がお前を離す確率は」
「ああああああ!! いいです!! いいです!!」

私が出せる最大の力で彼を押しても、爪先を思い切り踏んでみても、涼しい顔をしたまま見下ろしてくる彼にとてつもない恐怖を覚えた。目を合わせるとにこりと微笑んでくる彼、普通の人ならここで、アッ柳さんかっこいいトゥンク結婚しよ、と、なるところなのだが、私がこんな手の施しようも無い頭イカれてる系イケメン相手にそんなコロッと行くはずも無い。

「桜庭、これを飲め」

差し出されたのは自動販売機などでよく見かける形の缶。缶にはなにも書いておらず、中の飲み物が何なのかは予測出来なかった。

「なんです、これ」
「柳汁だ、先程製造してきた」

うわぁ…。引くわ…。
受け取らないまま缶をじっと見つていると、彼はさあさあと私の頬に缶を押し付けてくる。いつのも増して強引な彼に少し戸惑いつつも缶を受け取った。

「何が入ってるんですか」
「飲んでからのお楽しみだ」
「…じゃあ離してくださいよ」

渋々といった様子で腕の力を緩めた彼から逃げ出す。1メートルほど彼と間を開けるとプルタブに指を引っ掛けた。カシュッ、と気持ちのいい音がして空いた缶をそのまま逆さまにした。ゆっくりゆっくりと缶の中から流れてくる白濁した液体を見ると私はその缶を遠くへ投げ捨てた。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「勿体無いだろう、俺が朝からンムムムヌを痛めて精製したと言うのに」
「勿体無いだろうじゃないですよ!?!?!?!? なんですアレ!!!! ンムムムヌって何! きも!!! なにあれ!!! 飲み物じゃない絶対!!!!!!!!!!」

半狂乱気味に叫ぶ私は傍から見ればとても痛い子だが今はそんなことを考えるほど落ち着いていられなかった。もしアレを飲んでいたら全身麻痺でもしていたんじゃないかと考えるとゾワゾワとした。

「なんですかアレなんですか!! なんていう飲み物なんですか!! どこで売ってるんですか! どこで買ってきたんですか! なんであんなもの持ってるんですか!!」
「飲み物の名前か…。簡易的に言うならば精液だな。今朝のものだから新鮮だゾ★」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「少し静かにしたらどうなん」

彼の言葉を最後まで聞くまでも無く、私は彼の元から走り出す。途中、チリチリ黒髪の男子生徒にぶつかった気もするけど、おかまいなしに私は家までダッシュした。




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