「なあなあ、ちあき。死後の世界ってどんなんやと思う?」
「何も無いんやない」

 突然の問いかけにも関わらず、彼女は間を置かずに夢もヘッタクレもない返答をした。部活で派手に転びほどけた俺のジャージを縫う彼女の手は止まらずに、丁寧に元の形に戻している。
 彼女の座っているパイプ椅子の隣に腰掛け彼女の手元をじっと見つめる。白くて柔らかそうな彼女の指に手が出そうになる。

「あかんで、手出したら」
「…出さへん」

 空中で揺れていた腕は俺の膝の上に収まり、溜息を吐きながらパイプ椅子の背にもたれかかる。
 彼女は俺の事を見ていなくても俺の事が手に取るようにわかると、そう言っていた気がする。思い返してみれば、彼女は俺が電話をかけようとした時に電話をかけてきたり、他にも、手を繋ぎたいと思ったときにも彼女から繋いでくれたりする。
 超能力者か何かかと疑ったが、流石にそれは無いか、とまだ辛うじて残っていた脳の正常な部分が言う。

「俺、死ぬときはちあきに殺してもらおーかな…」

 不意に口から出た言葉にも彼女は動じず、縫い終わったジャージを見て微笑んだ。綺麗にジャージを畳むと身体を回転させ俺の方に向く。

「ちあきやったら、俺をどんな方法で殺してくれるん?」
「謙也はどんな方法で殺されたいん?」

 質問を質問で返してきた彼女に首を傾げる。

「やっぱ首絞めやろか。死ぬ間際までちあきに触れてられる」
「やる側は相手が死ぬまで触れてないとあかんけど」

「……せやったら、腹上死?」
「屍姦の嗜好なんか無いねんけど」

 俺の頭に手を置いて優しく撫でながら名前は答える。
 俺より身長が低いくせして、俺より大人な彼女にはいつもドキドキされっぱなしだ。好きな相手だと言うのも勿論あるが、それでなくても彼女が取る一つ一つの行動にドキドキする。
 彼女の触れている場所がじんわりと熱くなるような、そのまま溶けてしまいそうな。そんな気さえしてくる。
 彼女の手は俺の頭から頬に移動し、そこから首に滑る。俺の首筋に這う彼女の指にくすぐったさを感じた。

「謙也は老衰が一番お似合いやと思う」

 首から手を離し、俺の手をぎゅっと握りながらじっと見つめられる。揺ぎのない瞳に見とれそうになる。

「ちあき…好き」

 ぺし、と握っていた手を叩かれ、その手を引かれると唇に柔らかな感触。薄紅に染まる彼女を見つめているとほわほわ、とした気分になれた。死ぬことばかり考えるより、生きることも考えようかな…なんて、いつもなら考えもしないような事を思ってしまうのだから、彼女の力はとても大きい。

「なあちあき、俺が老衰するまで一緒に居ってくれる?」
「自殺とか事故死とか、アホなこと考えんなら」
「…それは、」

難しい問題やなあ。俺の幸福な時やから。





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