「だから、その髪をどうにかしなさい」

どうにかって何だ。

生まれつき色素の薄い私の髪は、一見わざとらしいほどに明るいセピア色をしていた。他人は羨ましがるけれど、私はいいと思ったことなんて一度もない。今だってこうして謂れのない非難を受けている。
今年度になって高等部から異動してきた担任は、生徒の間じゃ人の話を聞かないことで有名なクズ教員だった。

「あの……地毛、なんですけど」
「まだそんなことを言うのか!」

そう叫ぶのと同時に自分のデスクを叩きつけた。バァンと大きな音がして、室内の教員たちが揃ってこちらを向く。彼ははっとしたように我に返り、小さく咳払いをした。教員たちも関わらない方が身のためだとても言わんばかりに、すぐさまそれぞれの持ち場に視線を戻した。

「まぁ、な。お前はあまり校則を守っている方ではないから、信用できんのだよ」

スカートも短いし、成績も良くないし。担任はぶつぶつと私の悪い部分を羅列し始めた。
例えばクラス委員の木下さんは、肩にかかる髪に隠れてピアスホールを2つも開けているのだけれど、成績は学年5位以内から外れたことはない。
例えば陸上部の吉田さんは、化粧も派手でスカートも規定よりかなり短いのだけれど、短距離で全国大会に出場したりする。
木下さんや吉田さんにはそのような素晴らしい実績があるので、彼に咎められることはなかった。それなのに何故地毛が茶色いだけの私はこうやって責め立てられなければいけないのか。それに他のクラスなんてもっと派手な頭をした人だっているのに。例えば、テニス部とか。
ちなみにスカートが短いのは入学当時から身長が10センチも伸びたからで、勉強だって自分なりに頑張ってるけどどうしても伸びないのだから仕方がない。

「外見にこだわらずに、中身を磨け」

よくもまあ抜け抜けとそんなことが言えるものだ。そういうセリフは自分の姿を鏡でしっかり見直してから口にして頂きたい。少ない髪を寄せ集めて禿げ頭を隠している姿が心底みっともないと思った。

「とりあえず、この土日にでもその髪、黒くしてきたらどうだ」

漏れ出そうになるため息をぐっと飲み込んで、両手を握り締める。
"毛染,脱色,パーマ等は厳禁する"
生徒手帳にはそう記されている。それを教師自ら破れと言っているようなものなのだから、笑ってしまう。おかしい。おかしすぎて涙が出そうだった。

「ほら、黙ってないで何とか言ったらどうな」
「あー苗字!こんなとこにいたのかよい」

泣いてたまるかと唇を噛んでいると、突然後ろから名前を呼ばれて思わず身体が跳ね上がった。振り返れば信じられないくらいド派手な赤い髪が視界に飛び込む。去年同じクラスだったテニス部の丸井くんだ。

「お前、ジャッカルが探してんぞ。今日あいつと日直なんだろい?ねーセンセ。もうコイツ連れてっていいっしょ?」
「いやまだ話は終わってな」
「あのさぁセンセ、苗字の髪は地毛だっつの。染めてたらこんなサラッサラじゃねーから。参考は俺と仁王!じゃ!」
「おいこら!」

担任の怒号に目もくれず、丸井くんは強引に私の手首を掴んで職員室を後にした。ぐいぐいと引っ張られて階段の踊り場まできたところで、ぱたりと足をとめる。丸井くんは私に向き直って、ハァっと大きなため息をついた。

「ったくうぜーよな。俺あいつのクラスじゃなくてよかったわ」
「……うん」
「なんだよ暗ぇな。もう大丈夫だって。また何か言われたら俺が天才的に言い返してやっから」
「……っ、うん、ありがと」
「あー、泣くな泣くな」

途端にぶわっと視界がにじんだ。怒りとか安堵とか色んな物がない混ぜになって次から次へと涙が溢れてくる。丸井くんは困ったように笑って、わしゃわしゃと私の頭を撫でた。

「マジ、あーゆーのは気にしたら負けだから」
「……っふ、丸井くんが言うと説得力あるね」
「ははっ、だろい?」


(天才的ヒーローな丸井くん)
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