「なまえ、起きんしゃい。なまえー」
「ん…なに雅治」
「電話、彼氏じゃ」
「…いい」
「出んのか?」
「うん…」

最近のなまえはこんなんばっか。彼氏から電話くるたび出たがらん。

「ええんか、もう」
「いい」
「言いたいことも言わんで終わるんか」
「あーもーうるさいな雅治には関係ないでしょ。ほっといてよ」

ベッドに転がったまんま、なまえは壁の方向いた。背中見えとるし、無防備にもほどがある。まあここには俺しかおらんけども。人間の数だけで言えばなまえはぼっちなわけで、無防備だろうとなんだろうと別に構わんのだけども。

それにしても最近のなまえはもっぱら機嫌が悪い。原因はお察しの通り、なまえの彼氏じゃ。初めて見たときからいけ好かん男じゃ思うとったが……どうやらどっかで浮気しとるくさい。と言うよりむしろ、なまえのほうが浮気相手の可能性大。最近なまえはそれに勘付いて、フェードアウトを決めた。男はまだそれに気付いとらんのか、ちょくちょく電話をかけてくる。こないだも留守電に、俺のこと冷めた?とか、俺は愛してるのに、とか白々しい通り越してクソ寒いメッセージを残しおった。なまえに気付かれまいと思わずデータを抹消したのはまぁ…精密機械によくある不具合じゃよ。

(しっかし、腹立つのう…)

俺がなまえんとこ来てまだそんなに長くないけど、こういうことは前にもあった。なまえは男運がないっちゅーか、見る目がないっちゅーか…とにかくそういうのを引き当てるタイプ。前もその前も短かったけど、今の男はまだ半月も経っとらん。

「なまえー」
「………」
「無視せんで」
「…なに、眠いんだけど」

シーツの擦れる音がして、なまえが気だるそうに俺の方向いた。その頭にぽんっと手を置いてなでなでしたら、なまえは猫みたいに目を細めてされるがままになった。抵抗されるかと思ったんに、これは意外な反応じゃ。髪の毛さらさらしとる。

「なまえー」
「…ん」
「さみしいんか」
「ん、」

僅かに跳ねたなまえの手をとって、ぎゅっと握る。俺よりも白くて小さくて、やわらかい手。ハンドクリームでしっかりケアした女子の手。俺はちょっと気取ってみたくなって、そっと指先へと唇を寄せた。

「なに、」

不快そうに眉を顰めながらも、振り払おうとしないなまえに気をよくした俺は、その細い指に自分の指を絡めた。あぁ、ぬくい。生身の人間の手じゃ。

「俺がずっとなまえの傍におっちゃるよ」

口をついて出てきた言葉に、自分でもちょっとおかしくなる。我ながらかっこええ台詞じゃ。でもなまえは俺がこういうことを口にしたところで、あんまり嬉しそうにしてくれんことも知っとる。

「あんたなんか、たかが携帯電話のくせに」

ほら、な。

「…たかがって、傷つくのう」
「あんまり生意気言ったら機種変するから」
「それはいやじゃー」
「じゃあもう黙ってて。あたし寝たいんだから。明日ちゃんと起こしてよね」
「…おー、任せんしゃい」

まったく、冷たいご主人様じゃの。と言うよりも、素直じゃないのかもしらん。まぁそれがなまえの可愛いところでもあると俺は思っとる。そのほうがポジティブじゃろ。

俺は言われたとおり、朝の弱い彼女のために起床時刻を読み込んでおいた。追加機能の目覚めのちゅうは使わせてもらったことがない。せっかくセクシーイケメンモデルにうまれてきたのにもったいない。売り文句じゃったのに、これ。

「雅治、」
「んー?」
「…手、いつまで握ってるの」
「もちろん、ご主人様が寝んねするまでじゃ」

なまえは呆れたみたくばか、と呟いたけれど、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、握り返してくれた。ほら、可愛いかろ。ツンデレなんじゃよ。

「おやすみ、なまえ」
「ん……」

すぐに小さく寝息を立て始めたなまえのほっぺにこっそりちゅうして、俺もスリープモードに入る。手は繋いだままでな。たまにはええじゃろ。

可愛い可愛いご主人様、はよう幸せになりんしゃい。それまで俺が見守っといちゃるきに。

(20120806)
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