冬は人を駄目にするらしい。俺は今それを目の当たりにしている。

「なまえお前……終わってんな」
「うっさい、寒い、閉めて」

久々に訪れた幼馴染の部屋は樹海と化していた。たまたまバイトが休みだっつったらアイス買ってこいだのぬかすもんだから、このくっそ寒い中コンビニ袋片手に来てやったらこれだ。

雑誌、テレビのリモコン、ケータイ――一人暮らしの部屋だから狭いってのもあるけど、すべてのものがコタツから手の届く位置に配置されていた。ゴミ箱はもはやそれとしての役割を果たしておらず、ゴミは直接地域指定のゴミ袋にまとめられている。そこからあぶれたものは容赦なく周辺に散らばり、奴が転がるコタツの上も満杯になった灰皿と酒の空き缶で埋まっていた。

「女の部屋と思えねー」
「うっさい、アイスは」
「ほらよ」
「あ?ダッツじゃないのかよクッソ庶民が」
「は?ガリガリ君ディスってんじゃねぇぞいらねーなら俺が食う」
「ないよりマシ、食べる」

いいから上がれ、と言われ足を踏み入れるも何かを犠牲にしなければ前に進める気がしなかった。俺は仕方なく足元のゴミを拾い集め、傍らのゴミ袋へ押し込んだ。つーかこれももういっぱいじゃん。いつから掃除してねぇんだ?っつーか、

「……なんか臭くね」
「そういや三日くらい風呂入ってないわ」
「はぁ!?お前それでも女なわけ!?」
「コタツが私を離さないんだよ」
「はー……」

思わず深いため息が出た。なまえは呆れる俺に目もくれず、ガリガリ君片手に煙を吐く。どうしようもない光景に、俺は頭が痛くなった。



「おい、こら出ろ!」
「やーだー私コタツと結婚するのー!コタツと一生を共にするって誓ったのー!」
「んなのコタツもお断りだろぃ!いいから出ろって!」
「やだやだ凍える寒い死ぬ!」

とりあえずゴミに見えるものは一通りゴミ袋に突っ込んで、散らばった衣類は洗濯機、テレビの音が聞こえないと文句垂れるのも無視してざっと掃除機をかけた。この短時間でそれなりに人間の住処らしくなったのは、俺の天才的掃除力の成せる業だ。でもってご丁寧に風呂まで沸かしてやったのに、まだめんどくさいとかほざくので無理矢理引きずり出そうとした結果がこの攻防である。

「い、い、か、ら、は、い、れ!」
「だー!もうわかった!わかったから髪引っ張んないで!」

やっと這い出てきたなまえを脱衣所に叩き込んでやっと一息つく。俺はコタツの上に置きっぱなしてあった煙草を一本拝借して火をつけた。普段は吸わねぇけど、これはさすがにちょっとふかしたい気分にもなるってもんだ。それにしてもあいつはいつからこんなもん吸うようになったんだか。どうせまた男の影響だろう。そしてあいつがこうなるまで荒れたのも、どうせ。

「ブン太ー!タオルはー?」
「あ?……ったく」

なまえが俺を呼ぶ。俺はまだ長い煙草を灰皿に押し付けて脱衣所へ向かった。そういえば着替えも渡していなかったことを思い出し、引き返して箪笥の中身を漁る。しかしさっきほとんど洗濯機へ突っ込んだばかりなので替えになりそうなものがない、これはしくった。



「お前まじで乳ねーな」
「は?マジしねし」

着替えがないと言うとまたコタツに舞い戻ろうとしたので、無理矢理脱がせて押し戻した。いくら幼馴染とはいえ、いい歳した男女がまたもや色気のないやり合いをしてしまった。ともあれ、しばらくしてバスタオル一枚で出てきた姿を見てさすがに可哀想になったので俺のコートを貸してやった。

「髪乾かせよ」
「めんどくさい、やって」
「あ?犬かよー」
「わん」
「やる気ねーなおい」

俺は一体いつからこいつのお世話係になったんだっけか。そう思いながらも、わんわんとローテンションで吼え続けるなまえにドライヤーをあてがった。そこでふとその髪の長さで随分会っていなかったことに気づく。それはつまりこいつが前の男とそれなりに続いたということで、イコールこいつの傷もまた深いというわけで――やれやれだ、と思う。

「……俺にしときゃいいのに」
「んー?なんかいったー?」
「いや、なーんでも」
「ねーおなかすいたー」
「んー」
「ねーねーねー」
「あーうっせ!わーったから!あとでなんか作ってやっから!」
「やったねーさすがブン太だわー」

言葉とは裏腹に、相変わらずなまえのトーンは低かった。この温風でちらつく白いうなじに噛み付いてやったら、こいつはどんな反応を見せるのか、なーんて。あーまったく、仮にも好きな女を前にして何やってるんだか俺は。いい加減言ってやろうか、食われんのはお前だろって。俺はそんなことを考えながら、まだ洗い物だらけのキッチンを思い浮かべてげんなりしたのだった。

(20141107)
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