仁王とは気がつけば一緒にいるようになった。まわりからは付き合ってるって思われてるみたいだけれど、別にそういうあれじゃない。たぶん、たまたま波長が合っただけのことだ。きっかけは、あれだ。前の席だったあいつの、猫のしっぽみたいな襟足を思わず引っ張っちゃったのが始まり。だって気になったんだもんって言ったら仁王は、お前さん変わっとるのうって笑ったんだよね。私が見た仁王の中ではあのときが一番かっこよかったな。

そりゃ仁王はイケメンだし、最初はそういう気持ちがなかったわけじゃない。でも結局いつまでたっても全然そういう風になることはなくて、今となってはいわゆる男女の友情というものを確立していた。

はずだった。

「のう、苗字」
「んー?」
「好いとう」
「え?」

だからいきなりそんなことを言われて、思わず聞き返した。先生の都合でたまたま自習になった数学の時間、クラスメイトの各々が配られた課題プリントを片付けている教室内でのこと。友達同士で相談したり、もう終わった子はそのまま雑談タイムに突入したりで、辺りはそれなりにざわついていた。

「お前さんのこと、好いとう」

椅子を前後ろひっくり返して私の机に頬杖をついていた仁王は、ふと思いついたようにそう呟いた。すいとう。水筒?ちがうな、変換が。好き?仁王が、私を?そりゃ嫌いじゃないだろう、友達なんだから。さっきもお昼ご飯、一緒だったし。今だって、プリントうつさせてもらってるし。あれ、これは告白なのかな?じゃあ私はなんて答えればいい?なんて、苦手な数式と一緒に頭の中でくるくるし始めた私のことなんておかまいなしに、仁王はふぁ、と小さくあくびをした。

「……えー」
「なん?」
「わかった待って、これ終わるまで待って」
「おー、はよ写せ」

そのいかにもどうでもいいと言わんばかりの態度が気に食わなかったので、私はプリントを優先することにした。考えるのは後回し。集中するためにふるふると頭を振れば、仁王がくっくと笑ったのが聞こえた。チャラい笑い方だ。

でも仁王って見かけによらず意外と硬派、で……ちがうな、単に人見知りなだけか。そのせいか友達とかすごい少ない。あの強豪テニス部のレギュラーなだけあって、結構有名人なんだけど。実際わりとモテてるはずなのに、言い寄ってくる女の子は大の苦手らしい。追いかけたい派なのか、でも追いかけてる仁王って想像つかないな。

とにかく、あちこちでなんとかの詐欺師だなんて呼ばれるくらい大物?な彼だけれど、本当は多くを語るのが得意でないだけなのだ。まあ、よくわかんない奴って思われるのは悪くないと思っているみたい。たぶん中二病ってやつだ。

予感はしていた。仁王といるのは楽だったし、付き合ってるって思われるのも別に嫌じゃなかった。でも私たちには私たちの距離感があって……それを今この瞬間、何の前触れもなく崩そうとする仁王って、ほんと。

「あのさ仁王さぁ」
「んー?」
「なんで今言ったの」
「んー、なんとなく」
「やっぱり、あんたってそういう奴だよね」
「でも悪い気はしとらんじゃろ」
「うるさいなぁ」

視線は手元に落としたままだったけれど、仁王がどや顔してんのはわかった。悔しいけれど私はちょっぴりどきどきしていて、仁王の顔をまともに見れなかった。だって友達だと思ってたんだ、いまのいままで。そういう風に見ちゃいけない相手だって思ってたんだ。二人でいるのがあまりにも心地よかったから。

「なんだよぉ、もう」
「んー?」
「むかつく、振られてしっぽ切っちゃえ」
「え、振るん?」
「……振らないけど」
「じゃあ切らんでええね」

そう言って余裕たっぷりの笑みをこぼす仁王は、残念ながらどこからどう見てもイケメンで、それはつまり、長らく私の奥底に眠らせていた恋のような感情を呼び覚ますには充分だったというわけで、だからつまり、あー。

イケメンってずるい。

(20140120)
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