実のところ昔から手先はあまり器用な方ではありませんでした。ご存知でしたか?紙飛行機って意外と遠くまで飛ぶものなんですよ。私が折ったものは必ずと言っていいほど不時着してしまうものですから、学生時代友人の仁王君がテニスコートの端から端まで飛ばしたときは大変驚いたものです。

縫い物も苦手で、家庭科で刺繍の課題が出たときは指先が針の穴だらけになりました。見かねた妹がこっそり仕上げてくださったのですが、それをそのまま提出してしまったことはこれまでの私の人生の中でも最も恥ずべき行為のひとつだったと言えるでしょう。いえね、なかなかうまくいかず提出日前日の深夜までかけて作業していたものですから、途中で眠ってしまって……あの頃は毎日テニスの練習と塾通いを繰り返す日々でしたから、きっと疲れていたんでしょうね。本当に不覚だったのです。兄として妹の善意を無下にすることもできず……あぁ、お恥ずかしい。すみません、今のは聞かなかったことにしてください。

前置きが長くなってしまいましたね。とにもかくにもそんな私ですから、幼い頃はシロツメクサの花冠もうまく紡ぐことができませんでした。今より輪をかけて不器用だった私には、せいぜい小さな円をつくるのが精一杯だったのです。

『ひろくんはぶきようだねぇ』

隣家に住む幼馴染の彼女は勉強こそあまり出来ませんでしたが、音楽と工作だけは人一倍得意でした。彼女はクスクス笑って私から不恰好な花輪を奪い取り、左手の薬指にするすると通したのです。自身の編み上げた白い輪を頭に掲げ、無邪気に笑う彼女はとても可憐でした。あどけない手元に咲く潰れかけの花を見つめながら、いつかきっと、そこにもっとちゃんとしたものを。幼心にそう思いました。今思えば、随分とませた考えでしたね。

私たちの関係がただの幼馴染でなくなったのは、それから随分と月日が経ち思春期を迎えた頃でした。きっかけは私の中学受験が決まったことです。
彼女はお転婆でしたから、ベランダ伝いによく私の個室にやってきてはそのまま寝泊りしていくこともよくありました。その日も彼女は私の部屋に上がりこみ、無言でベッドに寝転んでいました。話しかけてもろくに返事をしてくれず、困り果てた私はただそっと彼女の頭を撫でたのです。それなのに、ついに彼女は泣きだしてしまって……考えるよりも先に私は彼女を抱きしめました。そして吸い込まれるように唇を重ねたのです。まだ子どもでしたから、ほんの触れあうだけの可愛らしいものでしたが。
驚きのあまり泣くことも忘れ、真っ赤になって抱きしめ返してくる彼女が、心から愛おしいと感じました。そのときから彼女は私にとって、大切な幼馴染から唯一無二の女性へと変化したのです。

中学、高校、大学と別々の道を歩んできたことで、互いにすれ違うこともなかったとは言いません。けれども私は彼女を幸せにするためにも、きちんとした収入を得られる仕事に就きたかったのです。一時は青春のすべてを捧げたと言っても良いテニスも辞め、勉学に励みました。あまり構ってやることもできず、きっと寂しい想いをさせたこともあったでしょう。それでも彼女は私を待っていてくださったのです。

その指に用意していた指輪を通したとき、シロツメクサに囲まれて笑う幼い彼女の姿がふと蘇りました。それが幸せそうに目を細める目前の彼女と重なったのです。あのとき見た夢がこの瞬間、やっと叶ったのだと思いました。

「……なまえ」
「ん、」
「ありがとうございます」
「え?」
「待っていてくれて」
「……ばか、当たり前じゃん」
「ありがとう」
「ん……ねえ、ひろくん」
「はい」
「ちゃんと幸せにしてくれる?」
「……ええ、もちろん」

私も彼女もクリスチャンではありませんが、結婚式は教会で執り行うことになりそうです。だって彼女には重たい着物よりも、純白のウェディングドレスの方がお似合いでしょう?
ですから健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも。彼女を愛し、彼女を敬い、彼女を慰め、彼女を助け、真心を尽くすことを神に誓いましょう。

そうですね、花嫁のブーケはシロツメクサの花でつくるのも良いかもしれません。彼女と二人で束ねるのも素敵ですが、十中八九私が足を引っ張ることになるでしょうから、そこは幸村くんにでもお願いしましょうか。きっと快く引き受けてくださるでしょう。

さて、これからしばらくは忙しくなりそうです。また彼女に寂しい思いをさせて愛想を尽かされてしまわないように努めなくてはなりませんね。ではまずはこの幸せな時間を大切にしていくことから始めましょうか。

(20130619)
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