※性的表現注意
※幸せな話ではない




高校生にもなれば誰しもがそういうことに興味を持つものだ。誰と誰が付き合ってるとか、もうヤッたとかヤッてないとか、さ。そういうの。だって思春期だもん、早い子は中学でもう経験しちゃってる。仲の良い子たちもどんどん済ませてって、だからちょっぴり焦る気持ちもあった。そういう話になったとき、まだなの?って目で見られるのが恥ずかしかった。馬鹿にされてるみたいで。

容姿にはそこそこ自信がある。勉強だって出来るほうだし。今の私に足りないのは経験だけだ。だから処女を捨てるくらい、別に誰だってよかった。けれどもどうせなら、初めては自慢できるような相手がいいって思った。

「柳生くんってさ、したことある?」

だから優等生で、テニス部のレギュラーで人気者の彼を選んだ。人一倍親切な彼は、用事があるから一緒に来て欲しいってお願いしたら快く承諾してくれた。防音設備の整った視聴覚室はそういうコトに適してるってクラスの子が噂してた。本当に使った人がいるかどうかは知らないけれど。
彼もまさかこんな話をされるなんて思っていなかったんだろう。驚いたように僅かに目を見開いて、じっと押し黙った。

「したいんだ、柳生くんと」

神経質なくらいきっちりと整えられている制服の胸元を引いて、ギリギリまで顔を近づける。眼鏡の奥で琥珀色の瞳が微かに揺らいだ気がした。

「どうして、私なんですか?」
「別に誰でもいいんだけどさ。柳生くんかっこいいし、モテるし」
「……そうですか」
「それに、柳生くんなら優しくしてくれるでしょ?」
「……わかりました」

思った以上にあっさりだった。その言葉を合図に、どちらともなく唇が重なる。生まれて初めてのキスだった。思ったより生温かかったけれど、思ったより気持ち悪くない。探り合うように舌を絡めながら、こんな感じなんだってぼんやり考えた。

「後悔しないでくださいね」

そう低く囁いた彼の言葉の意味なんて考えようとも思わなかった。後悔?するわけがない。だって私が望んだことだもの。
眼鏡を外した柳生くんの鋭い眼は普段の優しげなそれとは違う輝きを放っていて、品行方正な彼も所詮男であることを告げる。身体のナカが疼くのを感じた。

柳生くんはやっぱり行為も紳士的だった。床には自分のブレザーを敷いてくれたし、前戯も丁寧だったし。だけど始終無言のままで、それだけがちょっとロマンチックさに欠けた。彼がはじめてだったかどうかはわからない。
挿れられたときはそれなりに痛かったけれど血は出なかった。一通り終えて下着を履いたとき、こんなに呆気ないものなんだなって思った。こんなくだらないことをしたかしないかで競い合ってるなんて、ばかみたい。

「下校時刻を過ぎてしまいましたね」

ブレザーに袖を通しながら、独り言のように柳生くんが呟いた。前髪が少しだけ乱れている。無意識に手を伸ばせば、さらりとした感触が指先をかすめた。それをいつも通りの見慣れた七三に整えてあげると、彼はすっと目を細めてどこかさみしげに微笑んだ。

「私ね、好きな人がいたんです」
「……え?」
「清らかで、凛としていて……でも、結局自分の手で汚してしまいました」

どうして柳生くんがそんなことを言い出したのかわからなかった。その意味も。だから尋ねようともう一度口を開きかけたところで、不意に手を振り払われた。ぱしんと乾いた音がして、手首に鈍い痛みが走る。一瞬何が起こったのか理解できなかった。

「っ、柳生く」
「くだらない」
「え……」
「あなたはもう、変わってしまった!」
「……っ、」
「……失礼します」

柳生くんが声を荒げる姿を見たのは初めてだった。思わず呆気にとられる私をおいて、彼が部屋を後にする。最後に見た彼の横顔からは、表情を読み取ることができなかった。

しばらくして我に返った私は、わっと声をあげてしゃがみ込んだ。こんなはずじゃなかったのに。胸の奥からモヤモヤした黒いのが一気にこみ上げてきて、ひどい吐き気がした。
最悪だ。こんなの、最低だ。痛い。彼に弾かれた手首が、彼に暴かれた身体の中心が。痛くて痛くて、立っていられない。

『後悔しないでくださいね』

耳の奥で柳生くんの言葉が繰り返される。後悔なんてするはずない。だってこれは私が望んだことなんだから。それなのに。

「っ、なんで……」

あぁもう私は綺麗じゃないんだって思ったら、涙が出た。

(20130123)
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -