※柳生が逆トリ
※オチはありません



確かに昨日は久し振りに同僚と飲んで若干フラつきながら帰ったのだけれど、記憶を失くすほどじゃない。誰かを連れ込んだなんてありえない。それなのにあたしの隣には男の子が眠っていた。

「……った!?」

ごん!驚き過ぎて思い切り身を引いたせいで壁に頭をぶつけた。痛すぎてしぬ。え、何これ夢じゃない的な感じ?

「………マジで?」

恐る恐るそこに眠る人物の顔を覗き込む。つやつやとした栗色の髪に、男とは思えないくらいすべすべのお肌。シンプルな銀縁の眼鏡の奥には長い睫毛で覆われた目。すっと通った鼻筋、その下には形のいい薄い唇。一言で言えばくそがつくほど美人な彼は、信じられないことにあたしのよく知った人物なのである。

「……マジでか」

彼の名前は柳生比呂士。何を隠そうあたしの恋人である。ただし脳内。現実はただの紙面上の存在でしかない。つまりは二次元。漫画とかアニメとか、まあそういうアレだ。うん、何を言っているのかわからないね。あたしもよくわからない。現実なんてとうの昔にアデューしちゃったからさ!

すう、はあ。まずは深呼吸。胸のドキドキが半端ないけれど、嬉しい状況には違いない。目の前の彼は息してるのかを疑うくらいに静かに眠っている。眼鏡したまま寝ると曲がっちゃいますよ。それにしても、その、なんだ。

「……たまらん!」

だめだ、可愛すぎる。いきなり現れたと思ったら寝顔が拝めるとか神展開すぎる。ちゅーとかしてもいいですか。だめですか。ほっぺつんってしてもいいかな?これくらいならいいよね?つん。きゃー触っちゃった!

「ん…っ」

わー動いた!動いたよ!この子生きてる!んって言ったよきゃーどうしよう。これが俗に言う逆トリってやつなのか。てかやばいやばい起きた!

「ん…おはようございます、なまえさん」

え…えええ!?えっ今あたしの名前呼んだ?えっなんかそういう流れ?

寝ぼけ眼で起き上がる柳生くんは、やっぱりどう見ても柳生くんだ。あたしが口をパクパクさせていると、柳生くんはじっとこちらを見つめて、にっこりと微笑んだ。

「どうしましたか?なまえさん」
「あ、いや…柳生くん、なんだよね?」
「そうですが。どうしたんです?寝ぼけて恋人の顔もわからなくなったのですか?いつもみたいに名前で呼んでくださいよ」

ちょ!!まじ神展開きたああああ!!逆トリでさらに夢仕様とか!!なんだかよくわからないけどこうなったら最大限にあれだよ!エンジョイするしかないよね!!

「ひ、ひ、比呂士くん!!」
「はい?」
「い…」
「い?」
「いただきます!!!」

児ポ法なんて知るものか!!がばっと掛け布団ごと彼の身体に覆いかぶさった。あたしのことは肉食ももんがとでも呼ぶがいい。比呂士くんはそんなももんがをやさしく受け止めながら、クスクス笑ってこう言ったのだ。

「どうぞ、めしあがれ?」

ああもうあたし、死んでもいい!

(20120906)
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