あーやっちゃったなって思った。知らない部屋だし、ベッドおっきいし、服着てないし、ちょっとだるいし、アレの匂いもするし、これはなんていうか状況から考えて言い逃れ出来ないなって感じ。

でもだからって、なんでこの人なのかなあ。事故る相手じゃなくない?こういうのって、仁王とか丸井とか赤也とか、なんかそのへんのポジションじゃん。

「…すまなかった」
「いや、あの…えっと」

目の前で見事な土下座をしているのはまさかの彼、真田弦一郎だった。頭が床にめり込んじゃいそう。しかも裸だし。いや、かろうじて下着は履いてるんだけれども。

まあ、なんていうかその。ヤッてしまったわけだ、あたしたち。

「ねぇ…もういいから。お互い酔ってたわけだし…さ?」
「いや、しかし…!」
「いいって、ほら頭上げてよ」

あまりにもあまりだから、ベッドから降りて彼の肩を叩いた。それに応じるように恐る恐る頭を上げた真田は、あたしの姿を見るなりふたたび勢いよく額を床にこすりつけた。

「ちょっ、今の痛いでしょ!」
「服を…頼むから服を着てくれ…!」
「ああ、ごめん」

そう言えばあたしも裸だった。部屋の入り口から点々と上から順番に脱ぎ捨てられてる服や下着を見て苦笑する。脚の間とか少しべたつくし、とりあえず近くのソファに置いてあったバスローブを羽織ることにした。

「真田もなんか着なよ、あたしシャワー浴びてくるから」
「う、うむ…」

散乱した衣類の中からブラとショーツを拾い上げて言う。真田があまりにも気を遣うものだから、なるべく彼の視界に入らないようにしてバスルームへ向かった。

「うわ、広…」

どうやって来たかは覚えてないとは言え、さすがいかがわしいホテル。無駄に浴槽が広い。お湯ためたら泳げそうだ。しかも全面鏡張りときた。ふと視界に飛び込んできた自分の胸元には赤い小さな痣がいくつも散りばめられていた。その生々しさを目の当たりにして、さすがにちょっと恥ずかしくなる。

「…真田のくせに」

これ見よがしに置いてあるスケベ椅子に腰掛けて、熱いお湯を頭からかぶる。温度とは裏腹に頭がどんどん冷静になってきて、徐々に昨夜のことを思い出し始めた。

昨日は幸村率いる立海テニス部黄金期メンバーでの同窓会だったのだ。あたしもマネだったしおいでよって幸村に誘われて軽い気持ちで顔出したら、なんか懐かしさでみんなしてテンション上がってバカみたいに飲まされちゃって。ノリで仁王と赤也とちゅーして、そこで真田にたるんどるって叱られたあたりからすっごい絡んでやったのは覚えてる。

それからえっと…うん、やっぱりその先は思い出せない。まあ別に処女でもないし、もういい歳だし。酒に溺れて一夜の過ちくらいある。うん。真田は友達だし、そーゆーんじゃない。きっと向こうもそうだし。そうだ、忘れよう。どうせろくに覚えてないし、お互い何もなかったことにして、さらりと水に流してしまえばいいんだ。

なーんて、軽い考えで済ませられる相手じゃなかった。真田弦一郎って奴は。

「男として責任はきっちり取らせてもらう」

しっかりと衣服を身に纏った真田は、シャワーから上がってきたあたしに向かって開口一番そう宣言した。がっつりしわの寄せられた眉間と固く結ばれた口元は、その昔試合で負けて皆に制裁を促したときの姿を思い出させた。

「せ、責任って…け、結婚…とか?」
「ああ、そうだ」
「は、はあ…」

ああ、やっぱり。きっとこの人ならこう言うんだろうなってなんとなく想像はついていたけど、けど。ちょっと気圧されて思わず後ずさってしまった。これ一応プロポーズなのにムードも何もないな。

「そ、そんな無理しなくていいし…」
「無理などではない」
「で、でもあたし、昨日のことほとんど覚えてないよ…?」
「む…そうなのか?…いやしかし…それならば尚更のこと。酩酊したお前を、幸村たちに乗せられたとは言え…その…」

さっきまでの勢いはどこへやら、口ごもりながら見る見る情けない表情になってゆく真田は、どうやら昨夜のことをしっかりと記憶しているようだ。

察するに、あたしたちをこの場所に放り込んだのは元部員たちの仕業。確かに真田が自らこんなホテルに女子を連れ込むなんて考えられないし。そう思ったらなんだか変に納得した。そして同時に浮かんだ疑問。

「真田…もしかしてあたしのこと好き?」
「なっ、何を今更!」

真田の顔が一気に耳まで赤くなる。え、まじか。まさかの、まさかのだ。どうしよう。でもそうだよね、あの真田が好きでもない女の子とこんなことするはずないんだ。責任とるって、ああそっか、そうなんだ。そうだったんだ。

真田のことは友達だと思っていた。だってこいつは色恋ごとなんて無縁だった。男として見たところで報われるはずがないと思っていた。思っていたのに。

「は、うそ、だぁ…」
「っ、苗字!?」

途端に全身の力が抜けて、へなへなとその場にへたり込んだ。真田が驚いた様子で駆け寄ってきて、大丈夫か?どこか痛いのか?なんて真顔で聞いてくるものだから、大丈夫じゃないし、心臓が痛くて仕方がないって言ってやった。

(20120822)
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