桜がひらひらとんで、緑の上にそうっと横たわる。その前で、今まで見たことのない顔で笑うハリーくんの顔が目に焼き付いてはなれない、のに。どこかはっきりしなくて、今でもあたしは白昼夢を見てたんじゃないか、って思う。確かだった記憶もコーヒーに浮かべた生クリームみたいに頭の中でゆるゆるとけていく。
ハリーくんが、あたしを好きだって。嘘みたい。
そういったら親友は黙ってあたしのおでこに手をやった。熱はないもん。頭だって、痛くないんだから!
無理もない。だって、あのハリーくんだ。あたしだって信じられない。ホグワーツの、いや、魔法界きってのヒーローだから。とっても格好いいのに威張らなくて、それでいて優しい。そんな人が、あたしを好きって。
ちょっと前に、レイブンクローのチョウ先輩(あたしと違って、アジアンビューティーな人だ)と噂になってたことも知ってる。あたしよりもずっとずっと美人で、頭もよくて、とにかく素敵な人。そんな人を放って、あたし?それって本当に夢じゃないのかな。
いつもみたいに大広間で彼の横顔を探してみるけれど、見つからない。やっぱり夢の続きなのかな。本当は、あたしはまだ真っ白なシーツにくるまって寝ながらへらへらしてるのかもしれない。
―――、まだ寝ているの?
そう、寝ているんだ。あたしは今、生きてるうちで一番幸せな夢を見てる。ハリーくんの、特別な人になる夢。
―――それって、本当に夢?
夢だよ、きっと。こんなこと、夢じゃなきゃありえないじゃない。
「夢じゃないよ、唯。目を開けてみて」
誰かの手が肩をつかんでゆっくりと揺さぶる。目を開けて、その手の持ち主を見上げた。朝一番の澄み切った空気を浴びたような、すっと視界が開いていく。
ハリーくんだ。
みんながざわざわしてる大広間で他の誰でもなく、あたしの目の前に立っていた。腰を屈めて目の高さを会わせると、おはよう、って笑う。ほんのり赤い頬をして、ちょっとだけ気恥ずかしそうに。
「目が冷めたかな。僕のこと、見えてる?」
小さく笑いながらハリーくんは私の頬を撫でた。一気に顔が熱くなっていく。今あたしの顔は、ハリーくんよりも、りんごよりも赤いに違いない。
あたしは今信じられないくらい嬉しくて、幸せで。これ以上無い夢をみているのに、夢が終わらない。
「おっ……おはよう!ハリーくん」
「うん、おはよう」
甘くておいしいお菓子をもらったみたいに、ハリーくんが、とろけそうな笑顔で答えた。
目を開けて、夢の続きを
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