hotch・potch

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「で、どうだった?」


期待に目を輝かせる唯に、ルシウスは黙って首を横に振る。最初から無理だと分かっていたから前もって注意もしたのに、気に食わないらしい。幾らも経たないうちに彼女は眉を吊り上げた。側にあったクッションが顔に向かってすっ飛んできたが、杖を振って回避した。


「何で買いものに行っちゃ駄目なの!?今日は私の誕生日だから、好きにしていいってヴォルデモート卿自身がそう言ったのに!」
「好きにしていい、の範囲に関しては認識に相違があったようだ。かの帝王が貴様如きに謝罪の言葉を下さったのだぞ。当然、お前が我慢すべきだろう」
「嫌、嫌、絶対に嫌!」



歳もそう変わらないはずの女がベッドの上で子供の様に両手をバタバタさせている。思わず引いたルシウスを目ざとい唯が気付かぬ訳もなかった。

ぎらん、と嫌な輝きを込めた目で下から睨み上げると手元で何かをぐしゃりと握りつぶした。定番のネタを披露する羽目になる前にと、ルシウスは素早く暖炉の火を消し彼女の周囲から呼びだし札と火元になりそうな物を“アクシオ”する。

何処に隠していたのやら、いくつもひゅんひゅんと飛んでくるマグルの火つけ道具を回収しきると、八つ当たり先を無くした唯はすっかりむくれていた。仕方なく、帝王にも許可を受けていた代案を提示した。


「嫌ならば断わってくれて構わない。いや、是非断って貰いたい。もしお前が今日の予定に不満なら、我が家でパーティを開いてやらんことも無いのだが」
「やった!お泊りは?一泊ならしてもいい?」
瞬時に諸手を上げて大歓迎された。溜息を吐いて、額に手を置く。
「……一泊ならいいと許可を頂いている」
「すぐに準備する!」


口を酸っぱくして注意してもベッドから離れない癖に、こう言う時ばかり行動が素早い。クローゼットまですっ飛んで行った女の後姿を見ながら、今度こそルシウスは盛大に溜息を吐いた。



「へぇ、これが由緒正しいマルフォイ家の御屋敷なのねぇ」


きょろきょろと楽しげに辺りを見回す。門をくぐってから距離があるのは前の世界で住んでいた家もそうだったから気にならないけれど。矢張り日本で建てられた洋館と、西洋の地に立つ歴史ある洋館では趣が異なるように思うのだ。

いくつもの尖塔があり、全面の壁面は大きなはめ込み窓で覆われている。庭の一角にはルシウス自慢の薔薇園の生け垣が見えた。日は差しているのにどこか薄暗く、それは帝王の屋敷を初めて外から見た時の印象に似ている。大きなドアをルシウスに開かせ、一歩中に足を踏み入れる。玄関先で見覚えの無い老人が待っており、真っ先に一礼する。白髪をベルベッドのリボンで一つに纏め、ぴんと立つ姿はルシウスそっくりだ。

彼の後ろでナルシッサやベラトリックス、ロドルファスが控えている辺りで大方検討は着くわね。先手を打ち、ベラがどん引きしそうな令嬢らしい笑みを携え右手を差し出した。


「初めまして、私は唯・篠崎です。御当主のアブラクサス・マルフォイ氏とお見受け致しますが」
「仰る通り、アブラクサス・マルフォイと申します。お初にお目にかかります。ご尊顔を拝するばかりか名前まで御心に残して下さるとは!このアブラクサス、光栄の至りに御座います」


言葉通り、アブラクサスは酷く感激していた。この男は死喰人でこそないものの純血至上主義であり、帝王の妻を家に招待出来るとあって酷く興奮していたらしい。手にキスでもされそうな勢いだったが、彼は軽く握手をする程度で解放してくれた。

ちらりと確認すると、予想通りベラがペロペロ酸飴を無理やり口に突っ込まれたかのような顔をして、夫の肩になんとか隠れようとしている。

部屋に案内するように、とルシウスに言いつけアブラクサスは再び礼をする。こちらも礼をして彼らの前を通り過ぎた。廊下を突っ切り、階段を上った辺りでルシウスが困惑げな表情で振り返った。ふふん、私だってやればできるのよ。普段はやらないだけで。


「父を喜ばせてくれたのはありがたいが、どういうつもりだ?」
「別に?私が貴方達を特別に思っていることをアピールした方がいいのでしょう?今夜のパーティは何人位集めるのかしら?」
「……理解が早いな」
ルシウスは呆れ顔で答えた。
「純血一族は一通り呼んだ。部屋はこの廊下の一番奥を使ってもらう」


ドアを開くと、外見同様無駄に立派な部屋が用意されていた。カーペットから絨毯まで全てが深緑で統一されている。ベッドは天蓋つきだが、矢張り深緑色をしていた。この色って個人的にはスリザリンのイメージなんだけど、余程好きなのかしら。ホグワーツが。

そんな想像は置いておくとして、蛇の色なんでしょうね。本当の所。ルシウスの杖も蛇のデザインだったし、マルフォイ家の紋章とかにも蛇が入っていそう。
このベッドも居心地よさそうでいいわ!早速ごろんとベッドに転がると、ルシウスが甲斐甲斐しく荷物をクローゼットに仕舞い始めた。
仰向けになり逆さまの視界のまま、ルシウスに声をかける。


「ねぇ、ルシウス。何時から計画してたの?」


私の誕生日を祝うパーティなんて、一日二日で用意できる物ではないでしょう。しかも純血一族にカードをばらまく暇もあったくらいだもの。アブラクサスが主導で考えた可能性もあるけれど、私個人の予想では違う。すっかり荷物を運び終えたルシウスが、腕組みをしてベッドの柱にもたれかかった。


「何時からとは言わないが実際に動き出したのは先々月だ。苦労してお前の相手を務めあげている私には、これくらいの役得があって当然だろう」
「そうねぇ。貴方の面の皮を少し厚くする程度のことなら、許してあげてもいいわ」
「その御心有難く、とでも言っておくべきか?」
「言っておきなさいよ。気分が良くなれば、私のリップサービスも増えるわよ」
「……では」
ルシウスがこほんと咳払いをした。
「奥様のお心遣い、真に有難く思います。もうすぐドレスの試着にベラトリックスが参りますので、それまではどうぞゆるりとお寛ぎ下さい」


久しく見なかった丁寧な礼の後、ルシウスは退室した。いつの間にかベッドサイドには紅茶と茶菓子が用意されている。カヌレと、フレーバーティだ。機嫌よく口に放り込むと紅茶を味わう。

一口飲んで予想はついた。これを用意させたのはアブラクサスだ。私を知っているルシウスなら、こんな香りのお茶を用意しないだろう。フランス産のフレーバーティで、“エキゾチック”を売りにするこのフレーバーティは、外面だけなら私にぴったりの華やかな香りだった。

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