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ドラコが朝から妙にそわそわしていた。パンジーが隣で僕とドラコを見比べ、落ち着かない表情をしている。こういう場合は祝われる側がそわそわするものではなかろうか、と思いつつ苦笑した。ドラコの行動も、パンジーも例年通りだ。

夕食を済ませ談話室へ辿りつくと、ドラコはソファで待つように、と告げてわたわたと男子寮の自室へ駆けもどった。その後を大柄なゴイルやクラッブが盛大な足音を立てて追いかける様はまさに注目の的で、思わずため息を吐く。落ち着きの無い背中を見送り、パンジーもくすりと笑みを浮かべて女子寮へ戻っていった。

唯は、いない。授業が終わると返却期限の本がどうたら、と言って真っすぐ図書室へ言ってしまったから。僕が前もって今日という日を教えていなかったことは、朝食の席で気付いた。彼女は挙動不審な2人を見て心底不思議そうに、いや、怪訝そうだったか。首を傾げつつ笑っていた。
その様子を見るまで、僕は何故か当然のように彼女からも祝いの言葉を貰えると思っていた。親しくなってまだ一年もたたない彼女が、告げてもいない僕の誕生日まで把握しているはずがないのに。

長年の幼馴染達の間にするりと入り込んだのだ、彼女は。それだから彼らと同様長い時間を共にしたような気がしていた、のだろうか。自分でも良く解らない。仕方ないことだと思うのに、どこかで「何で知らないんだ」と可笑しな反論をしたくなる。
のっそりと顔を上げた、理屈に合わないそれを飲みこむより先に、どたどたと騒がしい足音が帰ってきた。


「ブレーズ!っ、その……誕生日プレゼントだ!僕がちゃんと選んだんだからな、大切にしろよ!」
「これ、僕から」
「こっちは僕」


やけにつっけんどんな口調で手帳サイズのプレゼントボックスを突き出すドラコ。ゴイル達はどかどかとテーブルに大きさだけは一人前な箱を積み上げた。ドラコからのプレゼントは火トカゲの皮ばりが表紙の手帳と羽根ペンだ。ドラコが持っているそれと良く似ている。恐らく、以前誉めたのを真に受けたのだろう。単純な奴だが、確かにこの手帳も羽根ペンもセンスがよい。僕も欲しいと思っていた。

巨大ボックスの中身は開けなくてもわかったが、一応開く。案の定、菓子の詰め合わせだった。彼らなりに、自分達が一番貰って嬉しい物を検討した結果だ。それぞれに礼を言うと、彼らは顔を見合わせて照れくさそうに笑った。


「あら、もう渡しちゃった?」
パンジーがショッキングピンクの包装紙に包まれた小箱を、ずいと突き出す。
「誕生日おめでとう、ブレーズ。気にいってもらえるといいんだけど」


パンジーは、毎年毎年贈ってくるものがやたらと可愛らしい。豪奢な花のブローチだったり、フルーティな香りの香水だったり、ハート型のネックレスだったり。人によっては男もつけられるだろうが……今まで貰った物は、こっそり母親に渡していた。今年は何だと包装紙をはがし、少し驚いた。パンジーが笑みをこぼす。


「どうかしら?制服の時につけられるし、いくつあっても困らないんじゃないかと思って」


ネクタイピンだ。蛇のデザインで瞳が緑色だ。恐らく宝石だろうが僕には解らない。ドラコが箱を覗きこみ、感嘆の声を上げる。早速つけてみると箱の装丁とは裏腹に派手でもなく地味すぎず、いつもの彼女にしては随分と大人しいプレゼントだ。


「実はこれ、お父様に勧められたものなの。ホグワーツ生になったんだから、プレゼントも少しは大人っぽい物を選びなさいって」


答えは彼女自身から貰えた。なるほど、彼女の父親の趣味か。パンジーの派手好きは母親から受け継いだもので、彼女の父はシンプルな物を好んでいた。大切にする、と言うと彼女は嬉しそうに頷いた。

友人達からそれぞれプレゼントも貰えた。恐らく今から部屋に買えれば母や、その他の付き合いで届いたプレゼントが積み上がっているだろう。唯は、仕方がないのだ。たった1人から祝いの言葉が無かったくらいで、何も悪いことなどない。

―――はず、なのに。


「そういえば、唯はまだ戻ってこないのか?」
ドラコがあたりを見回し、パンジーが慌てた様子で彼の袖を引く。
「そ、そうみたいね。ドラコ、ちょっといいかしら」


ドラコを暖炉の側まで引っ張りひそひそと囁いている。恐らく僕の誕生日のことを唯に伝え忘れた、とでも話しているのだろう。戻ってきたドラコは、らしくもなく作り笑いを浮かべていた。僕は気にしていないのに下手な気をまわされても。さも「可哀想な奴」と言われているような気がして、小さく息を吐いた。


「ドラコ、パンジー。僕は君達から貰ったもの以上に、プレゼントを催促するつもりはないぞ」
「えっ、あ……と、」
パンジーが途方に暮れたように、両手で口を覆った。
「だから唯のことは気にしなくたっていいんだ」
「あら、私がどうかしたの?」
「唯!」


ドラコの後ろから、ひょこりと唯が顔をのぞかせた。本を返しに行ったはずなのに、その両手には先ほどまで無かった別の本が抱えられている。彼女は満面の笑みで、手にした本をこちらに突き出した。


「さっきね、あなたが読みたがってた本が丁度返却されていたから借りてきたの。よかったらどうぞ」


受け取ってみれば、確かに前回は貸し出し中で借りられなかった小説だった。まぁ、これをプレゼントと思えばいいか。


「ありがとう。返却はどうする?」
「早目が何よりね。出来たら部屋で読んで頂戴」
「ああ、解った」
「それじゃ、今日は部屋に戻って課題を済ませることにするわ。おやすみなさい!」


彼女は何やら満足げに頷くと、女子寮への階段を上っていった。パンジーも、ひと足遅れて彼女を追っていく。僕も部屋へ帰ると告げれば、ドラコは引きつり気味の笑顔でひらりと手を振った。

ごろりとベッドへ転がり、本を開く。ストーリーはこうだ。魔法学校に通う少年は、ある日突然魔法が使えなくなった。学校へも通えなくなり家へ帰るも、周囲の目を気にした両親によって家から出されてしまい、マグル界での生活を余儀なくされる―――。マグル学の教師が生徒にこっそり広めている本らしく、僕も一度読んでみたかった。

魔法界を尊ぶでもマグル界を卑下するでもなく、淡々と2つの世界の表と裏をさらりと書きつづられている。こういう本は純血一族の目があると中々手を出せない。現に、ダイアゴン横町では売っていなかった。何故ホグワーツの図書館では平然とした顔で並んでいるのか分からないけれど。

最後まで読み切って、作者の紹介ページ―――ペンネームのみで写真もない―――に目を通した時、余白ページが熱を帯び銀色の文字が浮き上がった。


“ Happy Birthday !! ”


まさかと思い背表紙を確認すると、図書館の蔵書ならば押されている校章が無い。それどころか、裏表紙にはしおりが張り付けられていた。木製の板に焦げ茶のリボンがつけられただけのシンプルなものだが、そこにも銀のインクで“Wishing you birthday blessings ”のメッセージがある。思わず声を上げて笑ってしまい、同室の友人を困惑させた。

頭の片隅に居座った物が、一瞬でどこかへ消えて行く。やられたな、と内心で呟いて本を閉じた。明日会ったら一番で礼を言おう。悪戯っぽい笑顔を返してくれるはずだ。
―――それにしても。知っていたなら、普通に祝ってくれればいいものを。

それもあいつらしいかと思ってしまう僕は、もうきっとおちてしまっているのだろう。

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