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初めてあの方にお目通りを頂いた日に、気付いた視線。僕を穿つかのように向けられたそれは、今も変わらず向けられる。『Queen』は自由に部屋を出ることを許されず、僕にご用命がある時は殆どマルフォイ氏かスネイプ先輩を通して受けた。その殆どが話し相手を求める物だったが。回数が増えるにつれ、気難しいと言われているスネイプ先輩ですら僕に気安くなるというのにマルフォイ氏は一貫して、僕を睥睨し続けた。その視線の意味を悟れない程、僕は疎くない。

マルフォイ氏は許せないのだ。かの方に、帝王以外の男が近づくことを。
―――彼は、『Queen』に深く心を奪われているから。

彼女に心酔する仲間達も、密やかに噂して僕に真偽を問いただしてくる。マルフォイ氏は、はっきりと僕に事実を伝えることは無いがそれとなく注意を受けたことはたびたびあった。温度の無い視線と、怒りを押し殺したような無感動な口調の端々が言葉にできない熱を伝えてくる。

今日も、そう。
彼女が僕とティータイムを過ごしたいと言っている、そう告げるとマルフォイ氏はじろりと僕を睨んだ。僕よりも拳1つは背の高いすらりとした背美しい面差し、そして由緒正しいマルフォイ家に伝わる白銀の髪。立ち姿ですら高貴さを窺わせた。僕の父ならば喉から手が出る程欲しいだろう『力』の全てを、彼は手にしているに違いない。

その視線が、僕を全て見透かそうとしているような気がして睨み返す。ほんの数秒の間だが、マルフォイ氏は心の底に押し込めた熱がようやく露わになる。彼の目には、確かに僕への憤りが揺らいでいた。


「Jr.」


この人は僕をJr.と、そう呼ぶ。何時まで経っても、どこにいても僕はあの男の血から逃げられないのだと言われているようだった。


「お前1人を通すのに、私がどれ程の苦労をしているかお前は分かっているのか?」


吐き捨てるように言い、眉根を寄せる。例え彼女が僕と御茶会をと望んだとしても帝王は絶対にそれを許さない。自分以外の者から彼女を守る、そのために居るのがマルフォイ氏でありスネイプ先輩だ。ところが先輩達は彼女が望みを拒むことも許されていない。
故に、2人は僕を帝王や他の死喰人から隠しつつ部屋へ連れて行かなければならないのだ。


「ええ、承知しています。ですがそれも『Queen』の望みですから」
数秒の間の後、マルフォイ氏は溜息をついた。
「……お前が断る、という選択肢もあるが」
「僕が『Queen』のご用命を拒否するなど、ありえません」


きっぱりと返事をして前を向く。彼女をお待たせしているのだから、早く部屋へ迎えと視線だけで訴えた。小さく聞こえた舌打ちが、彼の答えだった。

部屋に入ると、彼女は満面の笑みで僕を御出迎え下さった。テーブルに用意された紅茶を手ずからカップに注ぎ、私に座るよう促す。マルフォイ氏は何時もの通りベッド脇に立ち腕組みする。彼女の好む、柔らかな風味と華やかな香りが口の中で広がる。淑やかで美しい、まるで彼女そのものを体現するようだ。雑談をいくつか交わした後『Queen』がふんわりと微笑み、カップを置いた。


「そういえば最近、私達の仲を疑っている人達がいるとセブルスから聞いたのだけれど……それって本当かしら?」
「私達、とは?」マルフォイ氏が僕を胡乱げに見る。
「私は存じ上げませんがそれはどういう内容でしょう。内容によっては帝王に申し上げなければなりません」
「あら、それってあなたの方が困るんじゃないかしら」
くすりと笑みをこぼし、
「勘違いしているようだけれど、噂になっているのは私とバーティじゃなくて、私とあなたよ?」


マルフォイ氏の動きが一瞬止まった、かのように見えた。目を大きく見開き拳を握りしめる。その手はわなわなと震えていた。


「……っ、私が奥様に手を出すような真似をする下郎だ、と?」
「あなたをどう思っているかは別として、ねぇ、バーティ。その噂の元は『貴方達』だって聞いたの。あなたはこの噂、聞いたことがある?」


奥様は噂の出元が、我々……奥様を『Queen』と呼ぶ者の中に居るとお考えでいらっしゃる。いや、もしかすると僕だと確定しているのかもしれない。私は肯定の意を伝える。奥様が、楽しげにくすくすと声を上げて笑った。


「いくらなんでも、ねぇ。そういう根も葉もないことを吹聴されると困るの。私にとってルシウスは大切な側仕えで、それ以上でもそれ以下でもないわ。あなたから皆に注意して頂戴。そんな下らない噂でルシウスがいなくなるようなことがあれば……私も、流石に怒るわよ」


表情は笑っているのに、目だけが僕へ怒りを伝える。確かに彼は、Queenの信頼を一身に受けていた。彼女が信じられないのも無理はない。それでも僕には分かるのだ、マルフォイ氏がどれ程彼女を愛しているか―――。どうしたら理解して頂けるのか、答えが出せずに僕は彼女へ笑いかけることを選択した。


「申し訳ありません。誰がそのような噂を口にしたのか見当もつきませんが、恐らく『Queen』の御側を許されたマルフォイ氏を妬んでのことでしょう。今後このようなことの無いよう、皆に注意致します。事実に反するようなことを吹聴する輩を見つけましたら、ご報告申し上げましょう」
「ええ、そうして頂戴。態々来てくれたのに、こんなことを御願いして御免なさいね」


彼女の笑顔が温かなものへ切り替わった。あの方は分かっていないんだ。ご自分がどれ程魅力的な女性であるかを。噂を広める訳にはいかないが、これからは僕達が御守りしなくては。苛立たしげに僕を睨むマルフォイ氏に笑いかけた。あの方がさっき僕にしたように、冷たい目のままで。相対したあの方から、押し殺したような笑い声が漏れた。


何も知らない貴方を
僕らが絶対に、守ってみせるから

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