hotch・potch

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こういうのって恩売りにはいいけど、面倒なのよね。
どうして私を選んだのかしら。まぁ、いまさらごちゃごちゃと文句を並べ立てるつもりもないけれど。小さく息を吐き捨てる。一緒に駄犬の餌やりをしたあと、セドリックに用があると伝え連れだってハグリッドの小屋の側まできた。さて、このあたりかしら。そっと左右を確認し立ち止まる。


「それにしても」
くるり、と身を反転させて後ろを歩くセドリックを仰いだ。
「セドリックって案外小心者よね」


踏みしめた落ち葉が足下で乾いた音を立てる。セドリックがきょとんとした表情で小さく首を傾げた。その姿すら様になるのだから不思議なものだ。


「何だい唐突に」
「何だい、じゃないわ。そのせいで私は今ちょっと困った目にあっているのよ」

セドリックにつめより、頬を膨らませる。

「セドリック、あなた寮で私のことを話したでしょう。一緒に犬の餌やりをしているって」
「あ、あ……だめだったかな?」

困惑の中に動揺が見える。唯に嫌われたとでも
思っているのか。わざとらしく盛大にため息をつき、かたをすくめた。

「だめじゃないけど、変な噂になっているのよ。セドリックと私がつきあっているって」


セドリックにとって唯はただのかわいい後輩にすぎないようだが、彼も私も異性には人気があるほうだ。そんな2人がしょっちゅう人目のないところで会っている、しかもそれを張本人が嬉々として言い振りまいているときた。何かある、と勝手な噂が広まることだってあると少しは考えてくれればいいものだが。この少年、どうやら自分への評価はあまり高くないらしい。


「え?僕と唯が?」
「同感だけど、その顔はひどいんじゃない?セドリック」
「顔?」
「『ありえない』ってここに書いてあるみたい」


背伸びをしてぐりぐりと額へ人差し指を押しつける。彼はクスクスと笑いながらゆるく唯の手をはらった。


「はは、ごめんよ。君はとっても可愛い。その証拠に僕の友人達は君の可愛さを繰り返し訴えてくるんだ。僕はまだ理解が足りないと言ってね」
「確かに同じことを言ってくれているけれど、セドリックに言われると何だか……まぁ、ほめられたと思っておくわ」

腰に手を当て、偉そうに聞こえるよう応える。頭の表面をふんわりと手のひらがかすめた。

「ありがとう、唯。噂のことは僕のほうでも訂正出来るように努めるよ」


全く、この光景を見て彼氏に見えるというほうがおかしいのだけれど。黒曜が小屋の隣で肩をすくめているあたり、どうやら向こうはまだヒートアップしているみたい。頭をなでられるのはだめなの?面倒な子。

もう一歩踏み込まなきゃいけないみたいね。とりあえず、唐突にいいことを思いついたふりをして、にんまりと含み笑いを披露する。


「もっと簡単に噂をはらす方法があるわ」
「どんな方法?」
「彼女を作っちゃえばいいのよ。この際だから思い切って告白しない?小心者の自分を捨て去るチャンスよ!」
「ええ!?さっき言ってた小心者ってそういう意味だったの!?」

目に見えて動転したセドリックは、ぶんぶんと大きく首を横に振った。

「いや、しないよ!まだ告白なんて、」
「だから小心者だって言ってるの!」

気分が盛り上がってきたフリをして少しずつ声を大きくする。

「もう、愛しのチョウ先輩は元々男の子に人気があることくらい、セドリックだって知っているでしょう!!」
「唯!大声で言わないでくれよ……」
「大声なんて出していないわ!本当のことを言っただけよ!」
「ああ、わかったわかった。早いうちに噂のことはなんとかするから落ち着いてくれ!」
「もう!そんな風だからいつまでたってもセドリックには彼女が出来ないんだわ」


ふがいない兄にあきれる妹をイメージし、ふてくされたフリをしてぷいと顔を背ける。ぽんぽん、と頭を軽くたたかれる感触がして顔を上げると、苦笑したセドリックがかるく膝をまげ顔をのぞき込んできた。


「機嫌を直してくれよ、唯。今度のホグズミードでおいしそうなキャンディを見繕っておくから」

今度はさっきよりも強めに手を払う。ハグリッドの小屋の前まで駆け出し、振り返る。

「すっかり子供扱いして!私はあなたと2つしか歳が違わないのに!」
「でも好きだろう?花形キャンディ」
「大好きよ!セドリックの馬鹿!」


最後に舌をつきだして身を翻すと、校舎へ向かってなだらかな丘をかけ降りた。唯がセドリックの視界から消えた瞬間、小屋の陰に隠れた少女の陰がためらいなく飛び出していく。細くか弱い、かつしたたかな背中に笑いがこみ上げてきた。


「これで任務完了かしら。依頼主にはご満足していただけた?」
――途中まではぎりぎりと歯を噛みしめていたがね。お前が名前を出してからは満面の笑みだったぞ。


黒曜の報告に満足し、大きく頷く。ここまでやってあげたんだもの、少しは進展がなくちゃ許さないわよ。預けていた赤いヒヤシンスのキャンディを受け取り、思い切りばりばりと噛みちぎった。

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