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エリュテイアの箱庭(侑)





いくら彼氏であっても時と場合を考えてくっついて欲しいと切実に思う。私の彼氏である侑は、ところ構わず私にくっついてくる。特に外ではやめて欲しいのだ。恥ずかしいし、どこで誰に見られているかわからないし。
そして久しぶりに一緒に帰れることになった今日ももちろん侑はべったりであった。たまに一緒に帰れる日はこうだから困る。それだけ愛されてると感じるのは嬉しいのだけれど。
「………侑」
「んー?」
「あの、もうちょっと離れて欲しいんだけど」
「なんでや!冷たい!久しぶりに一緒に帰れるんやでええやん」
さっきまでの距離はさらに狭まってしまった。しまった、逆効果だこれ。帰り道の途中の踏み切りに差し掛かる。幸いこちら側は私たち以外に周りに人がいなかったものの、向こう側からこちらへ向かって来る人が見えた。
「ほら、人が向こうから来てるし見られるのやだよ私」
「俺かて離れるの嫌やもん」
可愛く言っても駄目なんだからね。カンカンと音が鳴り、踏み切りのバーが下がる。貨物列車が通る。ここの踏み切りはちょっと待たなくてはいけないのだ。ぼうっと流れる貨物列車を見ていると髪に吐息がかかる感覚がした。
「あれ、シャンプー替えたん?」
「ひゃ、っ近い!」
「ええ匂い。俺これ好きやわ」
顔と顔がくっつきそうなくらいの距離に侑の顔が来ていて驚いた。
「こら!」
「あかんの?」
侑は自分の魅せ方をわかっている気がする。それから私が侑のその顔に弱いことも。
「………家に帰ったらいいよ」
「!」
自分からイチャイチャしようと言ってるみたいで恥ずかしい。おそらく私の顔は赤いだろう。赤い顔を見せたくなくてそっぽを向いていたが、侑の反応も気になるので横目でちらりと見る。髪の隙間から見えたのはにやにやした侑の顔だった。鼻歌まで歌って上機嫌だ。
もうすぐ貨物列車の最後尾かな、と遠くを見ていると、顔に影がかかった。そう思った次の瞬間には目の前に侑の顔。唇に柔らかい感触とリップ音が聞こえた後すっと侑は離れていった。
「帰ったらええんやんな。ほなはよ帰ろ」
電車が通り過ぎ、バーが上がる。侑に手を引かれて踏み切りを渡る。お互い帰路を歩く速度が自然と上がる。本音を言えば、私も彼とくっつけるのは嬉しいのである。




三題噺・お題:『髪』『踏み切り』『にやにや』