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カサンドラ、したためて(角名)





校内がどこか甘い匂いに包まれたこの時期が今年もやってきた。企業の思惑通りに盛り上がっていると言えば元も子もないが、バレンタインデーである。今年はバレンタイン当日は日曜日だから、金曜日である今日にチョコレートを持ってくる生徒が多いようだ。
俺が密かに思いを寄せている隣の席の彼女も、そうなのだろうか。ちらりとそちらへ目を向けると彼女はおもむろに口を開いた。
「男子ってさ、チョコの好みとかどうなんですかね」
「何、渡す予定あんの」
「…………渡したいとは思ってる」
俺にそういうことを言ってくるってことは、これは失恋か。彼女はお構い無しに俺に問いかける。
「やっぱり甘いのって駄目かな」
「人によるんじゃない?」
「参考までに角名は?」
「俺は甘いのも好きかな」
「ふぅん……」
素直に答えたものの心がじくじく痛む。彼女は俺の知らない誰かに渡すのだろうか。
気を紛らわそうという思いで窓の外を眺めると、渡り廊下を歩く宮双子が見えた。手にはチョコいっぱいの紙袋。今年も宮双子の人気はとどまることを知らないようだ。そう思っていると後ろから声をかけられた。
「角名、ちょっとええ?」
「何?」
振り返るとそこには隣のクラスの女子。
「これなんやけど……治くんに渡してくれへん?」
「わかった。渡しとく」
少し頬を赤らめて手渡されたのは可愛らしくラッピングされた紙袋だった。去年に引き続き、橋渡し役ってことだ。隣のクラスの女子は紙袋を俺が受け取ると、礼を述べて慌ただしく自分のクラスへと戻っていった。
「可愛いねぇ。恋する乙女って感じで」
「橋渡しすんのも大変だけどね」
「数多そうだもんね」
机に置かれた紙袋を見つめて彼女は話す。
「でも宮兄弟みたいにあれだけ沢山貰ってると、あの中の一つになっちゃうのか……ってなりそう」
「…………」
彼女はどこか切なげな目をして紙袋を見ているように見えた。もしかして宮双子のどちらかを好いているのだろうか。それとも同等に沢山貰う誰かか。
ところで、と彼女は唐突にわざとらしく咳払いをする。机の横に掛けてある鞄から紙袋を取り出した。それをそのまま俺の方に差し出す。
「これ、なんですけども」
「治?侑?どっちに渡すの?」
「ち、ちがうよ!!…………角名に、だから」
「は、……俺?」
恥ずかしいのか彼女はそっぽを向いてしまった。髪で表情まではわからないが、隙間からのぞく耳は確かに赤く染まっていた。
「……一応聞いていい?」
「……何ですか」
「これ本命?」
「………………本命です」
今度は俺が赤面する番だった。
「何か言ってよ」
「……超嬉しい」
絞り出すようにしてどうにか言葉を発したけど、彼女に届いただろうか。