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ROUND1 ゴングの音は鳴り響く




いつもより少し高めのヒール。目立たないけどそれなりに華やかなヘアメイク。右手には引き出物の紙袋。職場の同僚の結婚式に参列してきた帰り道を歩く。披露宴後、二次会まで付き合ったけどあんまり料理が口に合わなかった。こういう時は決まって顔馴染みの店へ行く。時計を見るともう結構遅い時間だ。私は慌てて閉店間際の店へと飛び込んだ。
「こんばんはー」
「すんません、もうラストオーダー終わって……ってなんやなまえか」
「店長おまかせで何か出して!」
「もうラストオーダー終わっとるって言うとるやろ」
「私と治の仲じゃん」
カウンター席に腰を下ろすと、慣れないヒールの疲れがどっと押し寄せた。


・*・*・*・*・


おにぎり宮の店主である宮治とは、高校の頃からの付き合いである。当時一番仲が良く、付き合っていたこともあった。1年ほどで別れてしまっているけれど。バレーに進路にと真剣に向き合う彼の邪魔をしたくなくて別れたのだ。彼も強く引き止めはしなかったから、そういうことなのだろうと受け止めている。しかし今でも近しい友人として私は未練がましく傍にいるのだ。治の何だかんだ面倒見のいいところが特に好きだった。さっきもああ言いながら何かしら作ってくれている。
「ほい、お待ちどお」
「やったー!」
好きだった、というのは嘘。今でも好き。料理を作るその大きな手も、真剣な表情の横顔も。未練タラタラなのはこちらだけなのだから、いい加減私は諦めて欲しい。
「俺の顔に何かついとる?」
「むぐっ、いや?何も?」
「ちゅうかなまえはそんなめかしこんでどこ行って来たん」
じっと見ていたら視線に気づかれた。その横顔に見とれていましたなんて言えないから、話題が変わって助かった。そりゃパーティードレスだから目立つよね。私は治に同僚の結婚式だったことを話した。
「二次会まで出たけど、料理が微妙で。それで口直しにおにぎり宮に来ました」
「そら嬉しいことやけども」
「というかね、もう同僚が最近次々結婚していくの」
「ラッシュか」
「そう!御祝儀で破産する……」
破産とはまあ大袈裟ではあるんだけど。でも本当に最近周りの人がどんどん結婚していくのだ。結婚はまだまだ先でいいし自分のペースでと思うものの、どこか焦燥感があるのは事実で。
「……早く結婚したい」
「彼氏も居らんのに?」
「……」
おっしゃる通りで。だって目の前の人が好きなんだもん。割り切って他の人と結婚出来れば苦労しないよ。
「でもなまえがどっか嫁に行ってまうのは寂しいなぁ」
テーブル席を拭きながら治が呟く。そんなこと言われたら期待してしまいそうになるんだけど。
「私が嫁に行ったら寂しい?」
「おん。馴染みの客が一人減るのは手痛いわ」
「そっちかい」
やっぱりか。危なかった。勘違いしそうになったじゃない。今日も踏みとどまって偉いぞ私。
どうせ相手にされてないことはわかりきっている。今日だって小綺麗にしているけど、多分彼は意に介していない。昔からバレーにも食にも勝てない。
「ご馳走様でした!店長、お勘定!」
暗くなっても意味無いし、相手にされてないことなんてわかってたじゃん。今日のところは早く帰って休もうと治に会計をお願いする。休んで気持ちをリセットして、明るい私でまた彼に勝負を挑もう。
食べた分の代金を支払い、紙袋を持って帰ろうとする。引き出物の中身何だろうな、最近はカタログが多いからもうバウムクーヘンとかじゃないのかな、なんて考えていると治に声をかけられる。
「なまえ」
「何?」
「送ってったるで待っとけ。こんな可愛く着飾ったお嬢さん、一人で夜道帰らせられんわ」
もう店閉めるし、と言われてしまえば私は舞い上がってしまう。そういうところが本当に狡い。
今日のこの試合は私の負けでいいです。潔く私は白旗をふった。