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木枯らしなんて言葉で表すのは相応しくないほどの強風である。家を出た途端、せっかくセットした髪もボサボサになってしまった。これはもうくくり直すしかないと思い、学校で整えることにした。更衣室で着替えた後に髪を直す。マネージャーの仕事をするからいつも髪をひとまとめにはしているが、せっかく直すのだからといつもの後ろの低い位置でひとまとめではなくポニーテールにした。歩くと揺れる様が良い。
挨拶をしながら体育館に入ると、あちらこちらにいる部員から挨拶が返ってきた。体育館に入るところでシューズを履き替えるために屈むと、ひとつにまとめた髪がさらりと流れる。それを目ざとく見つけたのか後輩が飛んできた。
「なまえちゃん先輩、今日ポニーテールやん!」
「ああ、侑。おはよ」
おはようなまえちゃん先輩!と侑は元気に返してきた。何か今日すごいにこにこしてるな。おまけにじっと見られている気がする。
「何ですか、侑くん」
「なまえちゃん先輩がポニーテールって珍しいやん。」
「うん、風強くて髪ボサボサになったからくくり直したんだよね。ポニーテールにしたのはたまたまだけど」
「めっちゃかわええ!」
「ありがと」

◇◇◇◇◇


我ながらこの後輩にはよく懐かれていると思う。入部当初は人に慣れていない犬のようで威嚇(?)らしきものもされていた。それがいつからかみょうじ先輩呼びだったのがなまえちゃん先輩に変わり、移動教室で見かけるとこちらへ駆け寄ってくるまでになった。最早大型犬のトップブリーダーの気分である。呼び方が変わったとともにタメ口になり、もしかして舐められてるのかと思わなくもないがそこは大目に見ている。ここまで懐かれるとこちらも悪い気はしない。むしろ可愛く思えるわけである。おそらく私の中の可愛い後輩のトップの座は侑のものだろう。

◇◇◇◇◇


放課後の部活が終わり、片付けと明日の準備もばっちりだ。帰る準備をしようと更衣室へ向かおうとすると侑がこちらに寄ってきた。
「なあなあなまえちゃん先輩、一緒帰ろや。送るで!」
「ありがと。着替えたら中で待っててくれる?」
「おん!」
あれだけ練習したのにめちゃくちゃ元気だ。着替えはどうしても男子の方が早いため侑を待たせないように急ぐ。更衣室から出ると既に侑が待っており、壁にもたれかかってスマホをいじっていた。その横顔を見て、双子は黙ってれば絵になるんですけどねと角名が以前言っていたのを思い出す。侑はこちらに気づくとぱあっと表情を崩し駆け寄ってきた。見えないはずのしっぽがぶんぶん振られているのが見える。さながら大型犬だ。寒さのせいか鼻が少し赤くなっている。
「中で待っててって言ったでしょ」
「なまえちゃん先輩を待ちたかってんもん」
「可愛く言っても駄目なものは駄目です」
「えっ、俺可愛えん?」
「ん?可愛い後輩だけど?」
「ふぅん……」
少し表情を曇らせたように見える。一体何だったんだ今の質問は。
「とにかく、大事な選手が体冷やしちゃ駄目なんだから。さ、帰ろっか」
「おん」

◇◇◇◇◇


帰り道やはり風が強い。風が当たるとそれはそれはもう寒いわけで。
「…っくしゅん」
「なまえちゃん先輩寒いん?」
「今日風が強い上に冷たいからさぁ」
「俺の後ろにおればええやん。風よけになるで」
こう言うや否や私の前を侑が歩く。
「駄目だよ、侑が寒いでしょ」
「なまえちゃん先輩が風邪ひいたら嫌やもん。あっでも隣で顔見られへんのも嫌や!」
「可愛い後輩が風邪ひいても駄目でしょうが」
すると侑は急に立ち止まった。私は勢いそのままに侑の背中にぶつかってしまった。
「…なあ」
「急に何、どうしたの」
「なまえちゃん先輩の中で俺ってやっぱり後輩でしかない?」
背を向けて話しているから、ここからはその広い背中しか見えない。くるりと振り返った侑はいつもの崩した表情ではなく、プレイ中に見せる真剣な顔をしていた。
「俺のこと後輩以上に見てくれへん?」
「へ…?」
不覚にもその真剣な表情にどきりとしてしまう。いつもならこんなことないのに変だ。だって侑は可愛い後輩で…?考えれば考えるほどドツボにはまっていく気がする。ぐるぐる考えてあたふたしていると手を取られ、そのまま侑のコートのポケットに握られたまま入れられる。
「こうしたら寒いのマシやんな!」
「えっ、わ、侑」
繋がれた侑の手は私の手よりひと回りは大きく、ちゃんと男子の手だった。何だか意識してしまって恥ずかしくなってきた。私の反応に満足気な顔を見せた侑はにこりと笑いながら言う。
「これから俺んことちょっとずつでええから意識してってな」
こんなこと言われたらたまったもんじゃない。顔が熱を帯びているのがわかる。強風による寒さなんてもうとっくにどこかへ吹っ飛んでしまった。明日からの私は一体どうなってしまうんだろう。






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