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『進展のない関係に終止符を!彼との関係を進める5つの方法!』こんな安っぽい記事の見出しにすら指が止まってしまう。というのも今の私の脳内を占めている悩みがまさにこの見出しの通りだからだ。
いや、せっかく彼と帰れるのだからそんなこと考えるのはよそう。HRの終了とともに、その記事のページを閉じた。


◇◇◇◇◇


荷物を手早くまとめながら、スマホを操作する。
「今、ホームルーム、終わりましたよ、っと」
トークアプリに簡潔に文章を打ち込む。宛先は彼氏である1つ上の角名先輩だ。待ち合わせ場所である下駄箱へと急ぐ。先輩の教室へ行ってもいいのだけれど、本人から駄目だと言われている。理由は聞いた事はないから知らない。でも、ただでさえ押し切るような形で付き合っているのだから嫌われるようなことはしたくないのである。なるべく我儘を言わない、いい彼女で居なくては。そう思うものの、寂しくないと言えば嘘になる。
一緒に帰路についても、どこかそういう気持ちが拭えなかった。


◇◇◇◇◇


1つ上の角名先輩と私は、私が押しに押した末に付き合っている。春に試合を見て一目惚れして以来、一途にアタックしていたら奇跡が起こったのか今の関係に至る。
付き合うことになったのは夏祭りからだったっけ。それも先輩に頼み込んで一緒に行ってもらって、帰り際別れる寂しさから気持ちを思わず伝えてしまったのだ。『いいよ、付き合おっか』と角名先輩が綺麗に笑ったのをよく覚えている。それと、送ってもらった帰り道、街灯に照らされた先輩の横顔に私の心臓がうるさかったことも。
しかし、よくよく考えて見ればあの時私は好きだと伝えたけれど、先輩の気持ちは聞いていない。付き合えたことに浮かれていて、その事には後から気づいた。今更聞くに聞けず、悩みの種と化しているのだ。
私はいつもいっぱいいっぱいなのに、角名先輩は何をするにも余裕そうで。どうして私と付き合ってくれてるんだろう、私のことどう思っているんだろう、と考えれば考えるほどに悪い方へ思考が傾く。無意識にため息がもれた。


◇◇◇◇◇


そんな悩みを抱えたまま、日々は過ぎ行く。それでも今日は一緒にお昼を食べられたのでとても幸せだ。悩みはあれど、基本的に角名先輩は優しい。お弁当を作って持ってきたら残さず綺麗に食べてくれた。
自分のクラスに戻り、幸せに浸りながらカバンの整理をする。
「あれ?これ……」
2人分のお弁当を持っていくためカバンごと空き教室へ持って行っていたのだ。そのカバンの中には見覚えのあるスマホが。これ角名先輩のスマホじゃん。お昼に私のカバンに紛れ込んだのだろう。
普段先輩の教室には来ないよう言われているけど、スマホがないと困るだろうし、と放課後届けに行くことを決めた。


◇◇◇◇◇


上級生のフロアに来るのはとても緊張する。たしか先輩のクラスはここだ。角名先輩はどこだろう、ときょろきょろしていると声をかけられた。
「誰か探しとるん?」
「あ、えっと。角名先輩は居ますか?」
銀色に髪を染めているこの先輩はバレー部でも有名なあの双子の片方だ。確か治先輩だったっけ。角名先輩同様背が高い。
「角名ならさっき自販機行ったで待っとったら?」
「いえ、スマホだけ渡しておいてもらえますか?」
「あいつ忘れていったん?」
「私の荷物に紛れ込んだみたいで」
それにしても視線を感じる。少し居心地が悪いくらいだ。他学年のフロアに居るのが珍しいからだろうか。治先輩にスマホを預けて帰ろうとした時、肩に手を置かれて振り向く。
「……なまえ、どうしたの?」
「!、角名先輩」
角名先輩は少し息を切らしている。もしかして急いで来たのだろうか。
「なまえちゃんはな、お前にスマホ届けに来てんて」
「あ、やっぱりそっち混ざってたんだ。ありがと」
無事先輩にスマホを手渡せたのでミッションコンプリートだ。それはそれとして、角名先輩の感情は読み取れない。対して治先輩はにやにやとした表情を浮かべている。
「ちゅうか角名、この子例の彼女か?」
「……そうだけど、治は黙っててよ」
『例の』とは一体。不思議に思っていると、治先輩は角名先輩に構わず続ける。その双眸がこちらを捉えて少し肩が跳ねた。
「知っとる?なまえちゃん。角名なぁ休み時間ごとに惚気けてきよるんやで」
「え?」
「治黙って。あとなまえのこと名前で呼ばないで」
「苗字知らんのやもん」
角名先輩に小突かれるも、治先輩は更にスルーして続ける。
「その癖、写真すら見せへんの。クラスでも角名は彼女を溺愛しとるって有名なんやで」
「ちょっと、治!ああ、もう!」
「えっと、角名先輩……?わ、どこ行くんですか!?」
治先輩から私を離した方が早いと判断したのか、角名先輩は私の手を引いて教室から出ていく。先輩に手を引かれるままについて行くと、空き教室にたどり着いた。


◇◇◇◇◇


角名先輩は何も言わず黙っているから、私も何も言えないでいる。怒ってるかなと不安に思っていると空き教室に入った瞬間、突然抱きしめられた。
「!?、す、角名先輩!?」
「はぁー……すっげぇかっこ悪い……」
そのまま首元に顔を寄せられる。普段ここまで密着することがないから、心臓がばくばくいってる。首元に当たる先輩の髪がくすぐったい。
「だから教室来ないでって言ってたのに……治の馬鹿」
「あの、えっと、勝手に教室行ってごめんなさい」
「なまえは悪くないから」
謝ると即座に否定された。別に怒っているわけではないみたいで安心した。安心とともにふと思ったことを口に出してみる。
「……というか、先輩私のことちゃんと好きだったんですね」
「は……?好きに決まってるじゃん」
少し腕を離されたので、見上げると焦ったような顔を先輩はしている。
「だって先輩からは付き合おうかとしか言われてないですし」
「えっ、俺言ってなかった?……あー……多分、嬉しくてそれどころじゃなくて」
自分にとって都合のいい言葉が並ぶけれど、これは夢じゃないよね。角名先輩は口元を手で覆っていて表情はあまり見えないけど、耳がちゃんと赤くなっているのが見える。
「ちゃんと、好きだよ」
「!」
「教室に来ないよう言ってたのも、なまえに悪い虫がつかないようにってだけだし。クラスでだけ惚気けてたのも、なまえに余裕がないとこ見せたくなかったからだし。そもそもなまえが可愛くて仕方なくて「も、もう結構です!」
恥ずかしくて途中で遮ってしまった。角名先輩はどこか不満げだ。私達はお互い言葉が足らなかったのかもしれない。こんな先輩初めて見た。
「……普段そんなに惚気けてるんですか」
「なまえにときめく度にしょっちゅう」
「でも写真は見せたりしないんですか?」
「なんか減る気がするじゃん。なまえが可愛いのは俺だけが知ってたらいいの」
めちゃくちゃ大事にされてる。というか先輩、こんなに独占欲強かったのか。この日を境に、私は角名先輩の怒涛の愛情表現に溺れることになるのだった。






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