鋭い目


「なんか矛盾してるんだよね、私」

「なんのことだ?」

「ん、なんていうか、その、見つめるわけですよね。で、そのときは“期待”してるわけじゃない?だけど、…それが現実になったその瞬間に…パッて、逸らしちゃう、んだよね」

「なんの話をしているのかさっぱり分からないのだよ」



薄暗い道を部活終わりの緑間くんと並んで帰るのは、もう既に、当たり前の日常になった。


今まで彼は高尾くんのこぐチャリアカーに乗って登下校していたけど、一度部活のない日に一緒に帰ってからは、これが習慣になった。





そしてもちろん、私たちの会話の内容は大体、成田くんのことだった。

緑間くんとはクラスが同じだから、授業や行事のことなんかも当然話題として上がるけれど、でも、それは自然な流れでそれに、変わる。


本当に自然に、自然な、流れで。




ためらいはあった。

男の子に恋愛の話なんてしたことがなかったし、そもそも私は異性との関わりがもともと多い方ではないし。

慣れないことに、非日常に踏み込むにはやっぱり、ちょっとした勇気が必要で。


だけど彼が背中を押してくれたから、私はその一歩が踏み出せた。


緑間くんの隣にいる高尾くんは、とてつもなく、鋭い。








緑間くんが何を気にかけて、そちらに視線を向ける私が何に悩んでいるのかを、端から見ているだけで容易く見抜いてしまった。




「ねぇ、水野さん」

「え、?」

「あのさ、そんな気になるなら、すっぱり言ってきたら?真ちゃんに、なんか伝えたいことがあるんじゃねーの?」


「……え、」


「あ、いや、違う、なら良いんだけど、」


「……高尾くん、それ、緑間くんに聞いたの?」

「へ、」

「緑間くんから私のこと聞いたの?まぁでも、うん、そうだね、言いに行かなくちゃね。」


「いや、なんも聞いてないけど…見てたら2人がお互いを意識してるのが分かったから、さ。なんかあんのかなーって思っただけで」


「そうなの!?わっ、そんなに、分かり易かった…のか…私」


「………あ、いや、俺がただ、多分他人より鋭いってゆーか気付いちゃうだけだって。分かり易くなんかないと思う」

「そ、かな。なら良いんだけどさ!えっと…高尾くん。バスケ部の次の平日のお休みはいつですか?」

「え…今月の、最後の火曜だった、と思う。たぶん」

「そっか!じゃあその日は緑間くんを譲って下さい、私に」

「え、あ、うん?いいけど」

「その日に伝えるから、ちゃんと」

「あ、そ?そっか。分かった。りょーかい!」

「うん、よろしくね」





高尾くんに、まさか、言ったのかと、背中を冷たい汗が流れた。


だけど違うって。
見てたら分かっちゃったって。

私が分かり易いわけでもなく、ただ自分が鋭いだけだって。


その言葉を聞いてもちろん安心したけど、それ以上に、緑間くんのあの言葉は本当だったんだと。

彼はやっぱり信用できる人なんだろうなと、思ったから。


高尾くんとの約束の火曜日、私は緑間くんに本当のことを伝えた。


成田くんが好きということ。

緑間くんに当てられてとても驚いたこと。

そして、良かったら話を聞いてほしいということ。




緑間くんは私が話している間は厳しい表情をしていて少し怖かったけど、「分かった」と一言、とても柔らかい表情をしてくれたから。

私も自然と、笑顔になった。
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