跳ねる
友達はいる。
上辺だけの付き合いな訳じゃあないし、一緒にいて楽しいし、落ち着く相手だけど。
聞かれても答えなかった。
好きな人は、いないよと。
どうせ叶うわけないのに、無駄にあがいて惨めな思いをするくらいなら。
この心の奥に、誰にも知られずにしまっておいて、いつか消えることを、ただ、待とうと。
触れられない場所に、隠しておこうと、思っていたのに。
「…った、」
「…すまない、」
「あ…こ…、ちらこそごめんなさい」
教室の後ろでぶつかった。
あの時と同じシチュエーションに少しだけドキッとする。
ただ違うのが、ぶつかった相手。
ちょっと怖いイメージのある緑間くんと、結構ハードにぶつかってしまった。
そしてやっぱり、あのときと同じように視線がかち合う。
鋭くは、ない、不思議そうな視線で、こちらをじっと見つめられる。
…どきどき、
心臓がドキドキした。
でもそれは跳ね上がるようなものじゃなくて、ひやりと汗が伝うような緊張で。
何か言われるのかとビクビクしていただけで。
だから少ししてふい、と視線をはずし目の前から居なくなった彼に、ふぅ、と胸をなで下ろした自分がいた。
そして月日はたち、相変わらず椿くんの後ろ姿を目で追う日が続いていた、ある日。
「…水野」
「ん?」
「好き、なのか」
「………え?」
「成田のことが好きなのか、と聞いているのだよ」
人気のない、7月半ばの放課後の教室で。
あの、緑間くんにあまりにも唐突にそう、話しかけられて。
__心臓が、止まりそうになった。